綺麗な花には棘がある
カンカンカン
都市全体に響き渡る鐘の音は、敵襲の合図。
などではなく、品評会が開幕する合図である。
この鐘、実はただの鐘ではないらしい。鐘から近いか遠いかに関係なく、範囲内にいる人全員に一定の音量で聞こえるというなんとも不思議な魔道具である。
実際、辺境などでは敵が攻めて来た際にも使うらしいが、王都では、重要なイベントの始まりの合図などでよく使われるそうだ。
品評会は本日から10日間に渡っておこなわれる。一番盛り上がるのが、初日の開会式と9日目の豪華来賓を招いた特別部門の品評会である。ちなみに10日目は閉会式があるが、9日目で帰ってしまう人が多く、いまいち盛り上がらないらしい。
開会式は、大金を出してチケットを購入するか招待を受ければ見ることができる。幸い、我が父は招待を受けておらずチケットも購入していないそうだ。おかげで今朝はゆっくりと眠ることができた。
一方、品評会自体は多くの会場で行なわれるため、手軽に見に行ける場所が多い。俺は現在、父と一緒にそんな会場のうちの一つにいた。
「さあ始まりました。ランタナム商国天下一品評会。この会場は、料理部門のお菓子カテゴリーの第3会場でございます。」
司会のお兄さんが元気にそう言うと会場は早くも盛り上がりを見せていた。
品評会は料理や武器、乗り物などの部門に分かれており、それがさらに、武器部門の弓カテゴリー、短剣カテゴリー、大剣カテゴリーというように細かく分けられている。
最初の5日間では、それぞれのカテゴリーの中で優秀な品が選出され、その後の3日間で各部門ごとの優秀な品が決まる。
今日は父の決定で料理部門お菓子カテゴリーの会場に来ている。父は特別甘いものが好きなわけではない。出場する人か観客にだれか知り合いでもいるのだろうか?
お菓子かー。健康を損なわずに引きこもり生活を送るための天敵でありながらも前世からずっとやめられない止まらない悩みのタネである。
前世では、タバコはそもそも吸ったことがないし、酒もほとんど飲まなかったためハマることがなかったが、お菓子に関しては物心ついたころにはその味を知ってしまっていた。
「これから紹介されるものの多くは後にこの会場の近くで売り出される。ソアも何が食べたいか考えておくといい。」
隣にいる父がそう教えてくれる。今はスキルが無理やり運動や外出をさせてくるため、カロリーに気を遣う必要はあまりない。楽しみである。
そんなこんなしているうちに審査員の紹介などが終わり、いよいよ審査が始まった。
「エントリーNo.1。パールベリーのスライム巻き!白く輝く美しい果物パールベリーを透明なスライムゼリーに包んだ美しい一品である!作ったのはこの国の町ハベロで料理人をしているレガーロさんだ!」
いかにもベテランの料理人といった風貌の男が紹介を受けて手を振った。堂々とした態度で自信が感じられる。
スライムゼリーもパールベリーも食べたことないため味は想像がつかないが、ゼリーに包まれた果物が真珠みたいに輝いていておいしそうである。フルーツゼリーみたいな感じだろうか?
紹介の後は審査員たちの試食タイム、真っ先に試食できるとは、なんとも羨ましい仕事だ。
「おおっと大丈夫か?いきなり審査員たちが苦しみだしたぞ!」
・・・嘘だろ?
「ああ、ご安心ください。毒などは入っておりません。そこら辺は事前にきっちり検査をしていますので。ただ、味の範囲はとても幅広いので、毎年品評会の前半では何度かこのような光景が見られます。それにしても、今年は一品目からだとは!」
俺と同じように焦った様子の一部の観衆を見て、司会のお兄さんが説明する。なんとも幸先の悪いスタートである。
父があとで教えてくれたが、パールベリーという果物は見た目の美しさとは裏腹に、とんでもなく酸っぱいことで有名な果物だそうだ。
雰囲気のある料理人と、美しく輝くお菓子。それがこんなことになるなんて見かけは当てにならないな。
壇上の料理人は審査員の一人を見て爆笑していた。もしかしてわざとやったのか?
審査員、羨ましいと思っていたが実はとんでもなく過酷な仕事だったみたいだ。
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