木彫りの熊をかけた漢の戦い

品評会の時期には、商国はお祭りムードとなり、歩行者専用の通りにはさまざまな出店が並んでいる。オーソドックスなものから、他国の名物、品評会に出品予定のものなどその内容は多岐にわたる。


男だけで屋台巡りってのも、なんだかんだでつまらなくはない。前世では、そういう場合、漢気に溢れたじゃんけんが始まって、みんなのお財布がすっからかんになっていた。買うものがくだらない方が盛り上がるの、ほんとバカみたいだよなあ。

俺は友人に家から引きずり出されて渋々参加していたが、一応いい思い出として心に残っている。


ただ、おっさんと2人きりで屋台を巡るのは流石になしである。俺がそんな状況にある理由は、前回孤児院に行った時と同じような理由である。


「坊っちゃん、見てくだせえ!すんげえ形の飴細工がありますよ!」


一方で、護衛としてつけられたおっさん、ダンははしゃぎまくっていた。指を指している先には武器や魔物を模した飴細工が飾られていた。確かにすごくよくできているのだが、はしゃいでいるダンを見るとなぜか気持ちがスンとなる。


孤児院での1件以降、なぜかダンは俺専属の護衛みたいな扱いになってしまった。孤児院に行って遊んで帰ってきただけなのに、何がよかったんだろうか?


それにしても、やっぱり凄腕の可愛いメイドさんの護衛が付くのは創作の世界だけなんだな。現実は才能もないのに人生を剣術に捧げたやべえおっさんの護衛だった。


しかも無口でストイックなキャラだったら一応様になるところを、商家の出のくせして謎に冒険者にいそうな口調の、出店を見てはしゃいでいるおっさんである。根はめちゃくちゃストイックなんだろうけど、普段接している分にはそう見えない。


正直フィクションに毒されすぎているだけで、腕が確かで性格もいい護衛がついているだけでも、とても幸せなことである。実際にかわいいメイドさんが護衛についていたとして、俺を守るために死んでいったりしたら・・・ダンがおっさんでよかった。


そんなひどく失礼なことを考えながら、はしゃぐダンに適当に返答しつつ歩いていると、いきなりダンの声が聞こえなくなった。不思議に思ってふと横を見ると、ダンは真剣な目つきで前方を睨んでいた。


・・・確かに前のほうが騒がしいな。何かあったんだろうか?



「おい!泥棒だ!捕まえろ!」


そんな叫び声が聞こえたかと思えば、凄いスピードでフードを目深に被った子供が目の前を横切っていった。


あれ、一瞬目が合ったような。


それに、あの走り方、最近見たような気がする。



うわー、めんどくさい。俺は追いかけないぞ!追いかけないからな!スキルさん!

どうせ体を乗っ取られるのはわかっているけどさ。


 


・・・あれ?


追いかけなくていいの?


よくわからないが、今回はなぜか体を操られなくて済んだ。よかった。当然、第2回ガキとの鬼ごっこ大会が始まるものだと思っていた。


「坊ちゃん、追いかけなくていいんですか?」


ダンが不思議そうに聞いてきた。


「追いかけるわけないよ。あの子が本当に泥棒かもわからないのに。」


一応、それっぽい理由をつけたしておく。


「さすが坊っちゃん、冷静ですね。小さい頃の俺はよくこういうのに首を突っ込んで、死にかけてましたぜ。」


「こんなことにわざわざ首を突っ込むダンがおかしいだけじゃないの?亅


「そうですか?大きな夢を抱く子供は、大体危険を冒して叱られたり怖い目に遭ったりするもんだと思ってましたぜ。」


別に大きな夢なんて抱いてない。なぜかウサギと追いかけっこして死にかけたことならあるがな!



ただ、見方を変えると、「引きこもりになりたい」ってのは俺にとっては長年抱き続けていた大きな夢なのかもしれないな。














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