【威圧】スキルも案外やばい

その場にいる皆がピタッと食事をする手を止めた。原因は金髪の美しい女性、我が母である。


「あなた?今日の商談の場で私とソアのことをなにやら話していたそうね?」


声色は落ち着いているのに、その華奢な体からは想像のつかないような威圧感を醸し出していた。母は俺たち息子にはとても優しいが、怒ったときは前世の父親ゴリラ以上に恐ろしいのだ。二人の兄も口を噤んで一生懸命空気になっている。


「ふ、2人ともかわいらしいところがよく似ていると言っただけだ。」


焦った様子で父は答えて、母は笑顔になった。


どこか恐ろしい笑顔に。


「あら。私が聞いた話では、『はあ。ソアは妻に似て、おねだりをするときに威圧してくるようになってしまった。本人たちはかわいらしくおねだりしているつもりなんだけど、あれじゃあグリズリーにおねだりされているようなものだ。』なんて言っていたとのことですが?」


知らないうちに【威圧】のスキルが働いていたのか・・・。気を付けないといけないな。ちなみにグリズリーとは恐ろしいクマの魔物である。


俺の【威圧】スキルは母からの遺伝である。父が今、冷や汗をダラダラと流しているようにある意味その効果は絶大であるが、恐怖で人を従わせるのが好きではない俺にとっては果たして有用かはわからない。


あ、でも、父におねだりをするときはこれからも使おうかな。ベッドもいいものに変えてもらえたし、たぶん効果はあったってことだろう。


なぜか父に使うのは心が痛まない。以前までの優しい父だったら痛んだだろうが、最近は俺にも厳しいからな。


「あ、あいつ、一言一句違わず報告しやがったな・・・。」


部下によって会話が筒抜けだったことに気が付いた父がボソッとつぶやいたがそれは悪手だ。


「部下のせいにしていらっしゃるのですか?私はともかく、こんなにかわいらしいソアのことをグリズリーに例えたのですよ?しかも、外部の人の前で。」


父の失言によってますます母の怒りと威圧感は増していく。少し食器がカタカタゆれている。物にまで威圧できるのか?と一瞬思ったが、みんなの体が震えているせいみたいだ。


俺は一応当事者だし、止めた方がいいかもしれない。このままじゃ父の頭が禿げて赤髪のザビエルになってしまう。ここで恩を売りつけて私室を快適にする魔導具を買ってもらおう。温かい空調とか、床暖房とか、本を浮かせる魔導具とか。


「お母さま、グリズリーはかっこよくていいじゃありませんか!僕は好きですよ!それに、そんなにいじめるとストレスでお父様のもみあげが禿げてしまいますよ。」


「なっ!」


「ふふふ、確かにソアは男の子ですし、魔物に例えられるのは嫌じゃなかったかもしれませんね。たしかにあなたの魅力的なもみあげが禿げてしまっては困りますからソアに免じて許してあげましょう。」


なんか言い間違えてしまったが、母の威圧が収まったしよしとしよう!


ちなみに、父に似てもみあげが髭とつながっている長兄はもみあげをさすっていて、次兄は思わず吹き出していた。


長いもみあげ、威厳があっていいと思うんだけどなあ。ただ長い髭ももみあげも手入れが面倒くさそうなので俺にとってはノーセンキューだ。聞いたことないけれど、異世界にも医療脱毛に代わる何かがあったらいいな。




後日、父に全力で威圧しながらおねだりをしてみたけど失敗した。母の強い威圧に慣れているから正直あまり効かないらしい。以前、ベッドをいいものに変えてくれたのは、単純に心配してくれてたんだな・・・。


それはそれとして父を威圧できるようになるまで訓練してみようと思った。クソオヤジは勉強や武術の訓練など、最近たくさんさせてくる。母ぐらい威圧をマスターしてもっと休みの時間をとることを認めさせてやるんだ!

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