ある日森の中・・・
辛い辛い冬の季節を乗り越えようやく少しずつ温かくなってきた。
地獄の早朝ランニングは未だに続いていたが、寒さによる憂鬱さからは少しずつ開放されている。
・・・大雪が降った日は地獄だったな。滑って転んだりしなかったのは不幸中の幸いだったが、視界と足元が最悪の中でも構わず走らされた。
顔に叩きつけられる雪の冷たさ、しもやけの痛み、化け物を見る目で見てきた顔見知りのお姉さん。うう、思い出すだけでも涙が・・・。
いつか、いつか絶対にあのゴミスキルを俺に与えた神に復讐してやる!もし、ラノベみたいにスキルが人格を持って実態化すれば、全力でそいつもぼっこぼこにしてやる!俺はこの恨みをわすれたりしないぞ!
―――そんな風にあれこれ考えて現実逃避(?)をする俺の目の前には木々が広がっていた。
現在、俺は森の中にいた。この森の中には魔物と呼ばれる凶暴な生物がいる。少し剣術を齧った程度の9歳児では、例え最弱に近い魔物である角ウサギ相手であっても、戦えば死ぬだろう。それなのに、この体は勝手に森の奥へと入っていく。
―――本当に勘弁してほしい。
目の前に現れたのはその角ウサギ。しかもこちらに気付いている。逃げようにも体はスキルに乗っ取られており、俺の運命はすでに自分の手の中にはない。
今、生き延びるためにできることは、このスキルがうまく俺の体を動かしてこの危機を脱してくれることを願うことのみである。
・・・ゴミスキルなんて言ってすみませんでした!撤回します。ぼこぼこにするってのも冗談です。いつも鍛えてもらって感謝しています。だから、許してください。まだ死にたくない!できれば無傷がいいです。痛いのは嫌だ!
今までの恨みを無理矢理忘れ、必死にスキルに媚びを売っていると、角ウサギが跳躍してこちらに飛び込んできた。スキルに操られた俺の体は最小限の動きでその突進を躱す。
これなら大丈夫そうだ!いける!いいぞ、スキルさん!
「え?」
だが、その瞬間信じられないことが起こった。体からふっと力が抜ける。なんとこのタイミングで体の制御権が戻ったのだ。
「この役立たずのクソごみスキルめえええ!」
は?なんで今?こんなところで体の制御権が戻ってきても俺は何もできないんだが!?
とりあえず俺ができることといえば逃げる一択だが、慌てている間に角ウサギは体制を整えて跳びかかってきた。
「痛い!」
ウサギの突進が腹部を掠める。
それでもなんとか軽傷で済んだようだ。先ほどとは比べ物にならないくらい不細工な避け方だったけれども関係ない、はやく今のうちに逃げないと!
すぐに駆け出して必死に走るが、今は操られていないため、いつもより上手く体が動かない。
―――たしかいつもはもっと地面を蹴るときに魔力を上手く使って走っているような。
魔力を意識すると少しだけ速く走れた。が、まだまだ遅い。
ちらりとウサギを見ると、つかず離れずの速さで追いかけてきている。体力勝負になりそうだ。
「はぁはぁ・・・」
どれだけ走っただろうか?木の枝に引っ掛かってこけそうになりながらも必死に走っていると、ようやく森の外へと辿り着いた。振り返るとウサギはいない。
はあ.....死ぬかと思った。肝心なときに切れるとか本当つっかえねえスキルだな!
そんなことを考えているとまた体の制御権がなくなった。
まさか?また森に戻ったりしないよね?
撤回します。使えないスキルってのは嘘です。だから許してえええ!
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