第11話
教室の掃除が終わると、僕は自分の席で書き上げた原稿を読み直してみた。
アンネ・フランクは十五歳で死んだ。
その少し前に姉のマルゴーも死んでいるが、二人の命を奪ったのは過酷な収容所生活とチフスだった。
『アンネの日記』として有名な日記は、アムステルダムの隠れ家に潜んでいた1942年から44年までのことを書いたものだ。
隠れ家には、二つの一家と一人の歯科医、あわせて八人が暮らしていたという。
潜行生活をする小集団は、環境の劣悪さ――トイレの使用制限や食料事情――もあり、軋轢を重ねていく。
それでも、日記にはみんなで笑い転げるユーモラスなシーンも描かれている。
隠れ家での生活が終わるのは、1944年8月4日の昼前。ナチスの秘密国家警察であるゲシュタポとナチ党員により踏み込まれたのだ。
何もかもわかっている!
と宣告されたことによって八人の命運も極まった。
護送車に家族と共に詰められて、アンネは隠れ家を去った。
何冊ものノートは散らばったままだったという。
自分の原稿を読み終えて顔をあげると、もう教室には誰もいなかった。
バラついた原稿をそろえると、図書室へと向かった。
書いたものの、心のどこかにひっかかりを覚えていた。
本の表層をたどることに、はたしてどれほどの意味があるというのだろうか。
僕の手を離れたこの文章は、ただのガラクタではないのか、という疑念が深奥に渦巻いていた。
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