第9話
『ブック・アラカルト』の締切まで二十日を切っていたため、二週間かけて猛烈な勢いでアンネの伝記を読んだ。
ノートに感想をメモして、読み終えたときにはノートの半分のページが乱雑に埋まっていた。
それから放課後は、図書室ではなくパソコンルームにこもった。
パソコンルームは図書室の対角線上の三階なので、たまに気分転換に廊下に出ると図書室に出入りする生徒たちの姿が小さく見えた。
図書室へ行きたくなる衝動を抑えて、規則正しくパソコンが並んだ部屋の灰色のカーペットを歩いて自分の席まで戻る。
ノートと資料が散らかっているが、幸いにも利用者が少ないおかげで僕の座っている列には誰もいない。
デスクトップパソコンに夢中で入力を続けていると、いきなり肩を叩かれた。
「どのくらい書いた?」
朔はそう言って、隣のチェアをこちら向きにして腰を掛けた。
仲のいい友人といえども、隣にひとがいると書けないものだ。
僕は手をとめて、やや迷惑そうに朔の方へと無遠慮な視線を投げかけた。
それでも朔はじっとパソコンの画面を見つめている。
居心地が悪く、黙っていると、朔は何度か軽く頷きながら、
「なるほどね」
とひとり合点した相槌を何度か打った。
「まだ書きかけだし、いったん書ききってからまた手を入れるよ……」
僕は言い訳めいた反応をしてしまい、内心、舌打ちをした。
中途のものを見られる恥ずかしさもあり、朔に早くここを立ち去ってほしかった。
「出だしだけざっと見ただけだけど、まあいいんじゃないか。ちょっと文章が硬すぎる気もするけど」
朔はこちらを見て言った。
「硬いって、読みにくいってこと?」
「ああ。どこか教科書じみてるっていうか、学術論文ぽいっていうか。まあ、その手の層には受けるだろうけど」
朔は言いながら、マウスでスクロールしていく。
「その手の層って、一般の生徒にはダメってこと?」
僕は尋ねた。
ダメというか読みにくい? と朔は首をかしげ、
「どこに読者のターゲットを置くかってことだろ。だから、海が意図的にその層へ向けて書いているならいいんだよ」
と可否をあえて回避するような言い方をした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます