第3話 取り調べの開始…

その晩、警察署内はどこか気忙しかった。

それは、逮捕連行されてきた容疑者、稲田朋子が理由だった。

検挙される者の中には女性も少なからずいることはいる。

しかし、朋子ほど若く美しい娘はそうはいない。しかも、東京の名門女子のある女学生だ。

高等女学校進学率ですら10%程度であった当時のことである。

女だてらに、という風潮こそあれど、見たこともない才媛が容疑者として連行されたということで、なおさら朋子への関心は高まっていた。


朋子の取り調べは即、行われた。

朋子は連行された時の浴衣姿のまま、椅子に座らされ両手首を背中で縛められた。

取り調べに当たったのは、係長、井上だった。

「知っていることはすべて吐け、隠し立てすると痛い目に遭うぞ。一道はどこだ!?」

井上はギョロリとした眼で朋子を睨んで凄んだ。


しかし、朋子はそれを大きな瞳でまっすぐ見据え、凛とした声で返答した。

「存じません。ここ数日、お会いしてもおりません。どこにいるのか、何をしているのかも私は存じません」

「ならば、一道が通じている人脈を喋れ!! お前の家に何人もの男が出入りしているという通報もある。何をしている!? 吐け!!」

「それも私の預かり知らぬこと…あの人は私には何も話しません」

朋子は井上の剣幕をものともせず、逆に厳しい視線を投げ返した。


「むう~~この女、予想以上に強情だ。いいだろう…そういう態度ならば、明日早朝からとっくりと調べ上げてやる。小生意気なアマだ!! 必ず、泥を吐かせてやる!!」

朋子は美貌を崩さず、キッと井上を睨みながら警部補たちに連行されていく。

留置場の中でも朋子は楚々とした表情を崩さなかった。

が、そこは19歳の乙女だ。内心は恐怖との闘いだった。

しかし、自らの身に差し迫る恐怖よりも、愛する男を想う心が勝っていた。

(あの人は無事かしら…)

反逆の乙女は許嫁の身を心から案じていた。


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