第7話 不毛地帯
「先輩がそろそろ帰ってくるから、分からない所を質問して……」
午後の休憩時間。休憩室で青空を見上げながら、この後の予定を考える。書類作成で分からないところがあるが、僕の教育係である国枝先輩は取引先へ出向いているのだ。彼が戻った際に、効率良く質問をするのが一番である。
「わっ!」
不意に窓の向こう側を上から下へと、黒い何かが通り過ぎた。驚いた反動でソファーから落ちそうになる。
「えっ……何だろう?」
体制を正すと、通り過ぎた謎の黒い物体が気になる。
「よし、確認をしに行こう」
時計を確認すると、一階に行き戻るまでの休憩時間は十分ある。僕は急ぎ足で休憩室を出た。
〇
「確か、この辺りだったと思うけど……」
メインエントランスを出ると会社の裏手に急ぐ。駐車場になっている裏手に、僕の靴音だけが響く。休憩室は角部屋である為、場所は直ぐに分かった。
「……あれ? 何で此処だけ?」
建物を囲うように花壇が設置されているが、角の一部分だけ草木が生えていなかった。赤黒い土が剝き出しになったそこは、人が倒れた形のように見える。
「おい、聖川」
「あ! 国枝先輩! お帰りなさい」
背後から聞き慣れた声が響き振り向くと、先輩が車から降りてくる。如何やら取引先との会議が終わったようだ。
「こんな所で何をしている? 休憩中だろう?」
「あ、えっと……休憩室から黒い何かが落ちるのが見えまして……」
先輩は眉間に皺を寄せると、僕を睨んだ。誤魔化して仕方がない。正直に此処に来た理由を口にした。
「それで気になったから見に来たと? 小学生かお前は……休憩時間だから休め」
「うぅ……すいません」
彼が指摘するように、社会人になったというのに衝動的な行動に反省をする。
「お前みたいなのが珍しいから、遊んでいるだけだ。相手にするな。ほら、戻るぞ」
「え? あ、はい」
先輩は会社のビルを見上げた。何かあるのかと僕も見上げようとしたが会議で使用されたであろう資料を渡され、慌てて抱えると先輩の後を追った。
背後で何かが潰れる音が響いた。
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