最終章
第81話 春を迎えて
季節は
町を真っ白に
また、人々の心が暖かな天気に浮き立っているのもあって、町の雰囲気そのものが明るく、穏やかだ。
リシュールは居間にある南側の窓から見える、朝日に照らされた外の様子を、手元の紙に鉛筆で
「リシュ、申し訳ありませんが、今日も夜まで帰れないと思います。食事は用意しておきましたので、よかったら食べてください」
クモイは窓辺に座る主人にそう言って、
「うん、ありがとう」
リシュールは素描の手を止め、クモイを見る。寝不足なのか、朝だというのに疲れた顔をしていた。
「……」
クモイがマリの話を打ち明けてから、ふた月が
クモイがどこに行って何をしていて、家にいる時間が少なくなっているのかは分からない。だが、リシュールは自分からクモイに尋ねなかった。
これまで通りと言えばそうだが、その一方でリシュールもクモイに秘密にしていることがあったからだ。
とはいえ、クモイのことである。きっと、勘づいているに違いない。
詳細を調べたければ、魔法具であるマントを使えば簡単に分かるだろう。
それでもリシュールが秘密にしている限り、クモイは知らないふりをしなければならない。魔法で調べて、心配だからと口出しするのは公平ではないし、そもそも自分が主人に聞かれたくないことがあるので、聞けないのだ。
リシュールはそれを分かっていて、自分もクモイに対して「どこに行っているの?」とは聞かなかった。
クモイは暖かそうな毛糸の帽子を被ると、じっと主人の顔を見る。
「何? どうしたの?」
リシュールは
「いえ……、何でもありません。行ってまいります」
「うん。気を付けていってらっしゃい」
「はい」
クモイが玄関のドアを開けて、バタン、と閉まる音がする。
リシュールはそれを聞き届けると、立ち上がった。
今日は仕事が休みである。そのため、リシュールは出掛ける準備をするため自室に向かった。
「そろそろ、片付けないとな……」
自分の部屋のドアを開けたリシュールは、はあ、と小さくため息をつく。部屋の中が、
部屋が
だが、挿絵の絵の中でも特に多かったのは、ウーファイアの姿を描こうとしたものだ。
きりりとした顔立ちのものもあれば、柔らかい雰囲気をまとった
また、髪も長かったり短かったり、真っすぐだったりくせ毛があったりと、沢山の種類があり、中には何度も、何度も顔の
さらに、同じ姿をしたものが数枚あっても、髪の色や瞳の色も様々に試したため、それらの色が異なっているものも、そこら中に散らばっている。
「……」
リシュールは、自分が通るところに落ちている紙を回収しながら、部屋の奥にある作業用の机の元に移動した。
そこだけはきれいに片付かれており、
「……」
リシュールはその箱に触れたあと、集めた紙を机の空いているところに置き、作業台の引き出しを開ける。
色鉛筆や筆、
リシュールはそれを手に取って、出し入れする口をひっくり返すと、あの日買った
「……」
リシュールはそれを
そして次に、四角い箱を水に
リシュールは、濃い灰色のマントを羽織って、帽子と手袋を付けると、箱の入った白い鞄の
「……よし、行こう」
気持ちを入れるようにそう呟き、シルヴィスの店に向かった。
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