第80話 リシュールの涙
クモイは一息つくと、話を続けた。
「魔法使い同士の戦いが終わり、人々の生活が落ち着いたころ、マリは私に魔法具のことを
「……きっと、クモイのことを頼りにしていたんだね」
リシュールがそっと言うと、クモイは苦い笑みを浮かべた。
「私には、『お兄ちゃんも、私のように魔法に振り回されて苦しんだらいい』と言われているような気がしていました」
クモイの冷ややかな言い方に、リシュールは眉を寄せた。
「そんな……」
だが、クモイは困ったように笑うだけで、うなずかなかった。彼は、まだ苦しみ続けなければいけないと思っているのかもしれない。
「……そういうことがあって、私はマリに責められる夢を時折見ます。ですから、もし夜にうなされてしまって、眠っているリシュを起こしてしまったら悪いと思い、寝室で眠ることを
「そっか、それで……」
ここに越してきてから、どうして寝室で寝ないのだろうと思っていたのだ。その回答がようやく得られ、小さく笑う。
その一方で、クモイの遠慮がちなところに心の距離のようなものを感じて、
「気にしなくていいのに」
するとクモイは、首を横に振る。
「ありがとうございます。ですが、これでいいのです」
「どうして……?」
するとクモイは窓のほうをちらと向いて、ぽつりと呟いた。
「……妹のことも、魔法具のことも、私が抱えなくてはいけないことですから」
その言葉を聞いたリシュールは、
もしクモイがマントを使ってリシュールのことを調べていなければ、彼はリシュールのことを知ることはなかっただろうし、出会うこともなかっただろう。
そもそも、彼に呪いがかけられて二〇〇年生き、絵本の挿絵を必要としていなければ、リシュールに出会うこともなかった。
もちろん、クモイやシルヴィス、マリなどを巻き込んだ魔法使い同士の戦いは絶対になかったほうがいいと思うし、マリの
だが、もし彼らの過去がなければ、自分との出会いもなかったのだと思うと、酷く複雑な思いに
「……っ」
リシュールはクモイに心配かけまいと思い、彼が窓のほうを向いているうちに、
すると再びリシュールのほうを向いたクモイは、目を丸くし戸惑い気味に「どうしたのですか?」と尋ねた。
「いや、その……ただ、悲しくて……」
「リシュ……」
するとクモイが、リシュールの
「申し訳ありません。どうかお許しを」
「……何でっ、謝るのっ。聞いたっ、のは、僕のほうなのにっ……」
「本当は、リシュにマリのことを話すつもりはなかったんです。きっと悲しんでくださるだろうと思っていたから……。ですが先ほど、うなされて飛び起きたときに、リシュがいたことが私にとって心強く、つい私と妹について、知っていて欲しいと思ってしまったのです」
「そうなの……?」
リシュールが尋ねると、クモイがこくりと首を縦に振った。
「聞いてくださって、ありがとうございます。リシュ」
どこか
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