第79話 兄と妹
クモイの年齢を考えると、彼の父親がすでに亡くなっているのは想像できる。だが、「原因不明」という言葉が気になった。
「リシュは、大陸派遣のことをシルヴィスに聞きましたよね?」
「うん」
「大陸派遣」はスーベル島に住む魔法使いが、大陸の非魔法使いたちの生活を手助けするために始まった制度である。だが本当の目的は、学校が「秘法」の研究をするためで、これによって幾人もの魔法使いが
「私の父は、その大陸派遣中に亡くなったのです」
「そんな……」
裏を返せば、クモイの父親も学校が
「父が亡くなったとき私は幼児でしたので、父のこともそのときのことも、ほとんど覚えていません。ですが父の死をきっかけに、私の母は学校のことを調べ始め、
「強い魔法使いを……作る?」
リシュールはごくりと
「そうです。知恵があって、優れた魔法を使う学校の教師たちと一人で渡り合える、強い戦士を生み出す――。その一番簡単な方法が、簡単に申しますと優れた魔法使いの男との間に、子をもうけることだったのです」
「そんな……」
リシュールは首をそろそろと横に振り、嘘であって欲しいと強く願った。
「マリは、父親となった男からその事実を直接聞いたと言っていましたから、本当なのでしょう。私たちの母は彼と再婚していたわけではないので、再会して話を聞くまで、私もマリも全く事情を知らなかったんです」
「……」
「実際、マリは強い魔法使いに育ちました。ですが、彼女は自分が生まれた理由を知ってしまった。マリがどんなに苦しんだか、兄の私でさえ
「……そう、だね」
複雑な気持ちがリシュールの中に
他人であるリシュールでさえそう思うのに、真実を知ったマリがどう思ったのだろうかと思いを
だが、とてもではないが想像の度合いを越していて、リシュールには
「マリには、母に対する怒りがあったと思います。ですがその一方で、学校がやっていることに対しての不信感もあったため、自分でも調べて納得した上で、母が望んだように戦いを始めました。その代わり、自分が背負わされた運命や母に道具として使われた辛さや悲しみを、私への
クモイの表情は暗く、痛みを
だが、それはクモイの身を引き
もし、「何て酷いことをするんだ!」と妹を
「それは、悲しいね……」
リシュールは精一杯の気持ちで言った。それしか言えなかった。
クモイは主人の言葉を静かに受け取り、話を続けた。
「私は、彼女の憎しみを甘んじて受けました。どんなに
「接し方……?」
リシュールが問うと、クモイは「はい」とうなずいた。
「私から見た母とマリの関係は、
クモイは力なく笑い、
「でも、違っていました。母は私が戦いに巻き込まれないように、何も話さなかったのです」
つまりマリには苦労させても、クモイには幸せになってほしいと思っていたということだろう。それをマリが知っていたとしたら、一層クモイに対する風当たりは強くなったに違いない。
マリがクモイを自分の
「……」
クモイの母がこのようになってしまったのは、夫が大陸で原因不明で亡くなったためであり、学校がこの一家を闇に
だが、そうでなかったらマリは生まれていなかった。
そう思うと、リシュールの心は、なんとも言えない悲しさでいっぱいになるのだった。
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