第77話 小さな変化
「大丈夫?」
リシュールはそう言って、ラクチュアの傍に
「……はい」
うなずくクモイの灰色の瞳には疲労が
「すみません、お見苦しいところをお見せして……」
クモイは小さくなってまた謝った。
「だから、謝らないでいいって。僕は気にしていないから」
「ですが……」
何を言っても態度を
「リシュ……?」
「クモイのことは心配だけど、もし一人でいたいなら僕は部屋に引っ込むよ」
辛そうにしているクモイが、我慢することを望んではいないし、できれば頼って欲しいとも思っている。
だが、クモイがリシュールに頼ることを
そう思っていると、思いがけずクモイがリシュールを引き止めた。
「待って――!」
リシュールは驚いてクモイを見ると、彼自身もびっくりしていて灰色の瞳を丸くしていた。
「あっ、えっと……」
自分の行動に思考がついていっていないらしい。
「クモイがいて欲しいって思うなら、
クモイは視線を泳がせ、どうしたらいいか戸惑っていたが、もう一度リシュールの顔を見ると、おずおずと尋ねた。
「……いいのでしょうか?」
「もちろん! ちょっと待っててね」
リシュールはそう言って、クモイからカップを受け取ると調理場のほうへ向かう。だが、そのとき一つ思い出したことがあって、クモイのほうを振り返った。
「そうだ、クモイ」
「はい」
「着替えなくて大丈夫?」
「え?」
「汗をかいていそうだから。きっと着替えたらすっきりするよ」
クモイは主人に言われ、自分が着ているセーターに
リシュールと最初に出会ったころは礼服しか着ていなかったクモイだが、この部屋に越してきてからは、シルヴィスが普段着ているような、
最初は「礼服で過ごします」と言っていたクモイだが、もし同じ建物に住む人物が訪ねてきたときに、クモイが礼服を着た状態で対応することになると、「兄弟で住んでいる」と周りに言っているのに、「兄に召使いのようなことをさせているのか」と変な
「……そう、ですね。では、着替えてまいります」
「じゃあ、マントを――」
そう言って、リシュールが調理場にある椅子から濃い灰色のマントを手に取ろうとすると、クモイが「それは必要ありません」と言って止めた。
「え?」
「部屋に着替えを置いてありますので、そちらで着替えてきます」
「あ、そっか……」
クモイは、
「……」
リシュールは、カップに水を入れながら、クモイの変化に複雑な思いを
これまでのクモイは、何でもマントがあれば事足りていたのだろう。
だが、リシュールが防寒具として使っているため、その間はマントから物を取り出すことができなくなる。そのため、必要なものを部屋に置いているのだと思われた。
クモイが、マントだけの生活になっていないことは、リシュールにとって嬉しいことだ。
だがそう思う反面、自分がマントを使うことで、クモイが不便になってはいないだろうかと考えると、胸の奥がちくりと
クモイが
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
「……」
「……えっと」
だが、そのあとの会話が続かない。
リシュールはどうしようかとぐるぐる思うと、精一杯自然な風を
「今日、画材屋に行ったんだよ。それでね、
リシュールはがさがさと紙袋を開き、色固を見せようと思ったが、その前に店員に
「そのとき店員さんと少し話をしてね、広告紙を
「リシュ」
努めて明るく話したつもりだったが、クモイがそれとは反対に静かで、少し
リシュールはどきりとしたが、それでも笑顔を
するとクモイは、触れてはいけないものに触れるように、
「何故、私がうなされていたのかをお聞きにならないのですか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます