第76話 呼び声
「……」
規則正しい寝息を立てているクモイの寝姿を、リシュールはじっと見た。
初めて見るクモイの寝顔は、思ったよりもあどけない。
リシュールはクモイの寝姿が、どこか孤児院にいたときの年下の子たちのような
このことをクモイに言ったら、きっと少しだけ不機嫌になるに違いない。見た目は二十代後半くらいだが、実際二〇〇歳くらい生きているのだから。
「……」
リシュールは、クモイが思ったよりも深い眠りに
「ウーファイア」を描くのに、彼の顔を見るのが参考になると思ったからだ。
肌は白く
「……」
リシュールはクモイの顔から視線を
また、床を見てみればきれいに
全ての家事をこなし、それでいて日中はどこかへ仕事へ行っているのだから疲れて当然だ。
リシュールは、もう一度クモイの寝顔に視線を向け、彼がよく眠っているのを確認すると立ち上がった。クモイの顔を観察するのはまた別の機会にして、今日はゆっくり休ませてあげようと思ったからである。
それに、もし、じっと見ているときに思いがけずクモイが起きてしまったら気まずいだろうし、クモイも「従者」として寝ているところを見られたくないだろう。
「……」
リシュールはそっとクモイから離れると、調理場に移動する。そしてテーブルに置いた紙袋と、椅子に置いた帽子などを手に取って、自室に戻ろうとしたときだった。
クモイが
「うっ……」
最初リシュールは、その声は寝言だと思った。
だが、様子がおかしい。
「う……くっ、うう……」
「クモイ……?」
リシュールは振り向いて、居間にいるクモイの様子をもう一度見ると、
「クモイ!」
名を呼んで
「クモイ、クモイ!」
「……くっ、
「クモイ!」
「どうして……そんなこ、と……」
「クモイってば!」
「うっ……」
だが、リシュールの声は中々届かず、起きてくれない。どうやら悪い夢を見てうなされているらしい。
「どうしたら……」
クモイの顔は青ざめ、
もしかすると、一〇〇年以上前の辛い過去を見ているのかもしれない。そう思ったら、彼を早くこちらに引き戻さなくてはならないとリシュールは思った。
「よし……!」
リシュールは意を決すると、クモイの肩を
「クモイ! クモイ起きて!」
「う……」
「クモイってば!」
「くっ……、う……」
「クモイ!! 起きろってば!!」
その瞬間だった。クモイが飛び起きるようにして、目を覚ました。
「……はっ!」
クモイは荒い息を繰り返し、自分がどこにいるのか分からないといった様子で固まっていた。
「クモイ、クモイ」
今度は優しく彼の名を呼び、背をさすると、クモイは灰色の瞳をリシュールのほうに向けて見つめる。最初は
「リシュ……?」
クモイが戸惑いつつ尋ねると、リシュールはほっとしたように笑った。
「そうだよ。悪い夢を見てうなされていたみたいだから、起こしたんだ」
するとクモイは、主人に迷惑をかけたと思い
「……お手数をおかけして、申し訳、ありません」
その様子にクモイらしいなと思いつつも、リシュールは悲しさのような
「謝る必要なんかないのに。……そうだ。お水と、汗を
「いえ、それは私が……」
「いいから、クモイは座っていて」
リシュールはそう言うと、自室へ行って
「はい、どうぞ」
クモイは少し
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