第51話 「ウーファイア王国」と「スーベル島」
「最初に、俺とクモイの故郷のことを話そう」
「故郷、ですか……?」
ウーファイア王国で生まれたと思っていたので、リシュールはきょとんとする。だが、よく考えてみるとウーファイア王国には魔法使いはいない。それを考えると、故郷がウーファイア王国でないこともあるのかなと思った。
「そう。俺たちは、大陸から向かって南東にある『スーベル
「スーベル島? そこに人が住んでいたことがあるんですか?」
リシュールは驚いた声を出した。
「スーベル島」とは、ウーファイア王国から南側の海を越えた先にある島のことである。そして、その島もこの国の一部だ。
ウーファイア王国の領土は、大陸の一部とその島で成り立っている。
大陸にある領土は他の隣国から比べると小さいが、大陸の二十分の一ほどあるスーベル島を入れると、それなりの土地になるのだ。だが、その島は「人が足を踏み入ることができない」と言われている。人が住めない環境なのだ。
リシュールはそれを知っていたため、スーベル島に人が住んでいたことに驚いた。
「魔法使いは住めるのさ。何しろ、そこでしか魔法使いは生まれなかったんだからね」
「え……? どうしてですか……?」
リシュールは小首を傾げる。人が住めないはずのところに、魔法使いは住めるということは、どういうことなのだろうと思ったからだ。
理由を教えてもらえるだろうかと考えていると、シルヴィスは「そのことについてはもう少し後で話すよ」と言って、スーベル島に住む魔法使いのことについて説明を続けた。
「とにかく、スーベル島には魔法が使える者しかいなかった。それぞれ得意不得意はあっても、皆魔法が使えたんだ。だけどあるとき……そうだな、今か三〇〇年くらい前、俺とクモイが生まれる一〇〇年前の話だ。大陸に魔法使いを派遣することが始まった」
「魔法使いの派遣……ですか?」
どうしてそんなことをするのだろうと思っていると、考えていることが顔に出ていたのだろう。シルヴィスが教えてくれる。
「魔法使いはスーベル島でしか生まれないと言ったが、裏を返せば大陸には魔法を使える人がいないということだ。それを大陸に最初に渡った魔法使いが知ったのか何なのか……その辺りは分からないんだが、魔法の便利さを知っている魔法使いたちからすると、『魔法がないのは大変だろう』とか『困っているだろう』ということで派遣が始まったんだ。それを俺たちは『大陸派遣』と呼んでいた。魔法使いは天気を予報することができたし、魔法を使って畑を耕したり、空を飛べたから遠方の地に住む者に手紙を届けたりもした」
「すごいですね」
リシュールは感心する。だが、シルヴィスは肩を
「それで『大陸派遣』っていうのに、クモイの妹が参加していた」
「妹?」
クモイに妹がいることを知ったのは初めてだったが、あまり驚きはなかった。今住んでいる部屋を決めるときに、リシュールがクモイに「お兄ちゃん」と言ったときの反応を思い浮かべると、弟か妹がいたのではないかと思っていたからだ。
「そう。彼女は大陸のある村で慕われ、『ウーファイア』と呼ばれていた。一八〇年くらい前の話さ」
その名を聞いて、リシュールはハッとした。
「ウーファイア……って、絵本に出てきた魔法使いの名前……」
シルヴィスはうなずく。
「ああ。つまりあの物語はクモイの妹の話を元にしているんだ。だけど『ウーファイア』は彼女の本名じゃない。本当の名前はマリと言って、ウーファイアというのは仕事をするときの名前だったんだ」
「魔法使いは、仕事をするときには別の名前を使うのですか?」
「大陸で魔法使いとして働くときだけな。そういえば、『ウーファイア』という言葉の意味を知っているか?」
リシュールは昔、孤児院の先生が教えてくれたことを思い出す。
「えっと……大陸に伝わる古い言葉で『輝く光』だったと思います」
「その通り。『大陸派遣』をする者たちに仕事名を与えた理由は俺も詳しく知らないが、大陸に住む人々に対して、魔法使いの印象を良くするために行われていたんじゃないかと思う」
シルヴィスは言葉を続ける。
「ウーファイアは、村人たちに
「どういうことですか?」
「『魔法学校』の目的を調べるためさ」
「魔法学校……?」
リシュールは小首を傾げる。
「学校」というくらいであるから、魔法使いたちの学び舎だったのだろう。その「目的を調べる」とはどういうことなのか、リシュールには想像もつかなかった。
「魔法学校は、スーベル島にある魔法使いを養成する唯一の場所のことなんだ。だからスーベル島で生まれた者は、皆そこへ通う。そして学校は、スーベル島の行政も全て担っていた」
「行政も?」
「ああ。学校には学のある優れた者を置く。優れた者がいるところは、正しい判断もできる。正しく民を導くことができる――。だから学校には権力が集中していた。権力が集中すると何が起こると思う?」
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