第18話 リシュールの過去①
「はい、私はそう思っていますが……迷惑でしょうか……?」
クモイは主人の顔色を
「そうじゃないよ。ただ、僕の過去を聞く大人に、気を使われたことがなかったから驚いただけ」
「そうでしたか」
クモイはほっとした表情を浮かべる。
「だから話をするのはいいんだ。でも、あまり楽しくはないよ。ここでする話でもないかも」
孤児院育ちの子どもは、過去を語りたがらない。孤児院に預けられるのは、家族に問題があるからである。孤児院はそういう行き場のない子どもたちが保護され、生かされる場所ではあるが、だからといっていい環境であるとはいえない。
そのため、多くの者は隠したがる。
だが、リシュールはその点において、他の子と考え方が違っていた。
自分の過去をあけっぴろげに話してしまうのだ。それは誰かに自分のことを知っていて欲しい、という欲求なのかもしれなかった。
とはいえ、過去のことを話すとなると、どうにも暗くなりがちである。そのため、
しかし、クモイは「やめましょう」とは言わなかった。
「リシュが嫌でしたら、屋根裏部屋で話してくださっても構いません。でも、ここは
そう言われてリシュールは笑う。確かに人々が楽しくしている雰囲気の中で話せば、沈んだ話も多少はマシに聞こえるかもしれないと思った。
「ふふ、言われてみたらそうかもね」
リシュールはクモイに促されて、自分の過去を語り出した。
「さっきも言ったけど、僕は孤児院の出身なんだ。それも田舎でさ。一昨年まで、そこで生活していた。そこから分かると思うけど、僕は小さいころに親に捨てられたんだ」
「捨てられた?」
「うん。お金がなかったせいだよ。それなは父さんが、売れもしない絵を描き続けていたからなんだけど……」
「お父さまは画家だったのですね」
父に敬称を付けしみじみと言うクモイに、リシュールは、ふはっと笑った。
「何か変なことを申したでしょうか?」
「だって『お父さま』って言うんだもん。そんな言い方しなくていいよ」
「ですが……」
「子どもを孤児院に出しちゃうような親だよ? 大した画家でもないし、母さんとは
クモイは「そうでしたか……」と呟く。そこには
「でも、家にいて一番嫌だったのは、二人の喧嘩を僕が『いい子』にしていることで収まると思っていたところ」
「……」
「僕は家の中で、ずっと『いい子』のように振舞っていたんだ。僕が
「それで、どうなりましたか……?」
「お陰で父さんと母さんの喧嘩は減ったよ。だから一生懸命に『いい子』を演じていたんだけど……、どんなにいい子にしていても父と母が喧嘩するようになっちゃって……。僕はもっともっと上手くやらなくちゃって頑張っていたんだけど、あるとき演じるのが疲れて嫌になった。そのうちに、母さんが涙ながらに『ごめんね』って謝りながら、僕を孤児院に預けたんだ」
クモイは静かに
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます