第12話 二人の朝食
「リシュ以外の靴磨きの子もいるみたいですね」
「しょうがないよ。さっき言ったようにここは穴場なんだ。城の方へ行く人たちがいるからね」
リシュールは持ってきた箱の中から、道具を確認しながら答える。周囲を見なくとも、普段からこの辺りに自分を含めて五、六人の靴磨きの子どもがいることは知っていた。
「普段は、どれくらいのお客さまの対応をされるんですか?」
クモイは、木箱に座ったリシュールの視線に合わせるようにしゃがむ。すると今度はリシュールの方が視線が高くなるので、少しだけ見下ろすような状態でクモイを見た。
「十人くらいかな……。生活していくためには、最低それくらい必要だけど、
そう答えてからリシュールははっとする。
「そういえばクモイはどうやってお金を稼ぐの?」
リシュールから給金を貰わないということは、別の方法でお金を稼ぐのだろう。
疑問に思って聞いてみると、意外な答えが返ってきた。
「お手伝いいたします」
灰色の瞳をきらきら輝かせて言うクモイに、リシュールは眉を
「手伝いって何を手伝うのさ」
「客寄せなら得意です。二十人でも三十人でも連れてまいりましょう」
「そんなに連れて来なくていいよ」
本当にその数の客を連れてきそうな気がしたので、リシュールは遠慮した。
「ですが、沢山来てくれたら嬉しいのではないのですか?」
もちろん来てくれたら嬉しい。だが問題は別のところにある。
「そうだけど、次々来られても困るんだ」
「何故ですか?」
リシュールは、視線をクモイから目の前の通りに移し、うーん、と
「待たせちゃうから嫌なんだよ。同時に二人なんてできないし。クモイも一緒に靴磨きをしてくれるならいいけど」
冗談半分に言ってみる。
だが、クモイは得意そうに「以前、やっていたことがあるのでお手伝いできると思います」と言った。
「ホント!?」
嬉しそうに言うが、リシュールはすぐに笑みをひっこめた。
「……でも、道具が僕の分しかないしなぁ。それに商売敵が増えるだけだから、クモイは別の仕事を探して来たほうがいいんじゃない?」
「いいえ、それには及びません。私が稼いだものは全てリシュに差し上げます。ですからお傍にいさせてください」
献身的なことを言う彼に、リシュールは目をむいた。
「それはダメだよ! クモイだって、自分の生活があるんだからもらえないよ。あの部屋にいるのはいいとしても、食事とかさ。そういうお金は必要じゃないか。――あっ、そうだ」
リシュールは何かを思い出したように声を上げる。
「朝食がまだだった。はい、これ」
リシュールは油紙に包まれたものを差し出した。
「これは?」
クモイはそれを受け取りながら尋ねた。
「フォン(丸くて固いパンのこと)だよ」
包み紙をあけると、大人の男の手のひら分くらいあるフォンが入っていた。
「それとこれはお水」
そう言ってリシュールは、蓋のされていない瓶をクモイに渡す。
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