第4話 怪しい青年
翌朝、リシュールは頬をツンツンと押される感覚で目を覚ました。
窓はちゃんと閉めたはずだ。だが、屋根裏のどこかにある隙間から鳥でも入ってきたのかもしれない。そしてそのくちばしで
「うーん……」
だんだん意識がはっきりしてきて、鳥にしては大きいなと思ったとき、見知らぬ顔の青年が自分を
「……え?」
リシュールは目を細めながら、朝日で明るくなった部屋を眺め、何が起こっているのか理解しようとした。
「おはようございます。よくお休みになられましたか?」
青年が爽やかな声で尋ねる。その瞬間、リシュールは目を見開いた。
「……うわっ、誰!」
驚いて飛び起き、混乱する気持ちを抑えるように、ぎゅうっと毛布を抱きしめる。すると青年は弁解した。
「驚かせてしまい申し訳ありません、
そして青年は人差し指を立て、にこっと笑う。どうやらほっぺたをツンツンしていたのは彼らしい。
いや、それよりも「怪しい者ではない」というのは変な話だろう。人の部屋に勝手に入って枕元にいたのに、何故「怪しい者ではない」と言えるのだろうか。
だが、彼が放った言葉の中で、リシュールにはもっと不可解なことがあった。
「あ、あるじ?」
青年がリシュールに対して言った、「主」という言葉がとにかくおかしかった。「主」とは、家や店などの一番偉い人であったり、貴族に仕える人が言ったりする言葉だ。
どう考えても貧乏な少年には不相応である。リシュールは当然聞き間違いだと思った。
だが、青年は否定するどころか、はっきりと肯定した。
「そうです。私はあなたさまに仕えるマントでございます」
状況が分からないリシュールに、黒を基調とした礼服を身にまとった青年は、立ち上がって
リシュールは目を見張った。
「僕に仕えるマント……?」
「その通りでございます」
彼は笑顔のままうなずく。だが言動がおかしい。いや、先ほどからおかしいが、ますますおかしくなっている。マントが人に仕えるなんて聞いたことがない。
この
「
そう言った彼の肩には、昨日買った黒に近い濃い灰色のマントが羽織られていた。
リシュールは、わなわな震える右の人差し指で彼を指す。
「ええっと、それが『あなた』ってこと?」
青年はうなずいた。
「その通りです。ですから、このマントの持ち主が、私のご主人さまになります」
「……」
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