第3話 濃い灰色のマント

 古着屋は使い古したものが売られているので、新しいものを買うよりも安く物が手に入る。よって彼をはじめ、あまり裕福ではない家の人たちはここをよく利用していた。


 外観はこの辺りでは珍しくレンガ造りになっていて、古い物を扱う店ではあるが、店主がきれいにしているお陰でこざっぱりとしている。


 また昼の時間になると、大きな窓に太陽の光が差し込むので、店の中がぱっと明るくなり、買い物客の気持ちも少しだけ浮き立つ。リシュールはその店内の様子が好きなのと、品物も良く見えることから、あえてこの時間を選んで訪れたのだった。


 リシュールは、柔らかな日の光で照らされた店内をゆっくりと眺めながら、目的のマントを探す。店の奥まったところへ行き、壁に備え付けられた棚を見たときだった。

 ちょうどリシュールの目線より下の辺りに、綺麗に折りたたまれ何枚か重なったマントを見つけた。


「あった……!」


 リシュールは小さな声で呟く。

 自分の体型にあったものはあるだろうかと、とりあえず一番上にあった黒に近い濃い灰色のものに手に取ってみる。すると、リシュールは眉を上げて目を丸くした。触り心地がとてもすべらかな上に、軽くて柔らかかったのである。


「……」


 リシュールは、次に大きさを確認するためマントを広げてみた。


 丈はふくらはぎ辺りまであって少し長いくらいだが、これから背が伸びることを考えるとちょうど良さそうだった。また中古品とはいえ穴も開いていないし、あまりすたれた様子もなくいい状態である。


 試しに羽織り、傍の壁に立て掛けてある姿見で見てみると、彼の茶色い髪と少し焼けた肌にもそれなりに合っているようだった。


 しかし気に入ったとしても、値段が高ければ買うことはできない。

 リシュールは、買える値段でありますようにと祈りながら、マントに付いている値札を見る。すると「三千セト」と書いてあった。


 これはリシュールが大体十日間ほど働いて、ようやく手に入れられる金額である。彼にとっては大金だ。しかし新品のマントを買うと、最低でも倍の値段がかかる。品質のことも含めて考えると、間違いなくお買い得だった。


「おじさん、僕、これを買います」


 こうしてリシュールは、濃い灰色のマントを買ったのである。


 その日、リシュールは寝巻の上にマントを羽織って布団にもぐった。思った通り品質が良いのかとても暖かい。これなら雪が降るような寒い日でも、なんとかなるような気がした。


 今年の冬はこれで暖かく過ごせるといいな、と思っているうちに、リシュールはうとうとと夢の世界へ入るのだった。

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