第42話 優しいキス side she
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『舞い上がってんの!』とソファに倒れこんだ皐月さんはけれど、一瞬後には起き上がりスタスタと私の前を横切って行った。
どこに行くんだろうと見ていれば行き先はキッチンで、冷蔵庫の扉を開けるとビールを取り出しその場で飲み始めた。
静かな部屋の中で彼の喉の音だけがゴク・・ゴク・・と聞こえてくる。
二口三口飲んで落ち着いたのか『はー』と息を吐き、
「緊張したら喉渇いちゃったわ(笑)」
そんな事を言いながら私に笑い掛けた。
そして開けっ放しだった冷蔵庫からもう1本取り出すと元の場所に戻ってくる。
2本のビールはテーブルに置いてぽすんと隣に腰掛けると、彼はスッと視線を上げ、じっと見ていた私と目を合わせた。
「・・・美乃莉ちゃん、今日から俺の彼女ね?」
その表情があまりに穏やかで優しくて・・・綺麗で、思わず見惚れる。
「・・・」
思わず言ってしまったけれど、本当にいいのだろうかと今更ながらにちらっと思った。
・・のを、気付かれたのだろうか。
「何とか言ってよ(笑) 今更無理とか、俺悲しくて死んじゃうよ?(笑)
美乃莉ちゃん、俺のことコロす気?(笑)」
苦笑しながら皐月さんが言い、その言葉に思わず私も苦笑した。
「おいー。マジ無理だかんな。もう絶対離さないからな!」
「っ!///」
もう!さっきからなに、この王子みたいな発言は・・・///
せっかく普通になった顔の体温が見る見る上昇していくのが分かる。
ちょっと、これ以上ここにいたら血圧上がって卒倒しそう。
「美乃莉ちゃん」
視線を合わせるので精いっぱいで何も言えずにいると、急に真面目な顔になった皐月さんに視線で問い詰められ、見詰め合いながら私はなんとか声を絞り出す。
「あの・・・不束者ですが・・・よろしくお願いします・・・」
多分、顔は茹蛸のようになってるだろう。
というか、顔どころか耳まで熱い。
恥ずかしくて、お辞儀をしたままの頭を上げられない。
膝の上でぎゅっと両手を結んでいると、そっとその手を大きな手で包まれた。
「絶対、大事にするから」
皐月さんの手は温かくて、声も優しくて、ゆっくりと顔を上げたらやっぱり優しいキスが唇に触れた。
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