第40話 思いもよらない



これまでの自分の、もう愚行と言っていい歴代彼女達への対応を思い出し、彼女を苦しみから解き放つべくそれを伝えながら過去を呪う。

犯罪は犯していない。

けれど何人の女の子の心を壊してきたか。

彼女に俺は相応しくない。

この業を背負って、彼女から離れるべきだ。

彼女まで悲しませてしまう前に。


彼女の目から落ちた涙を拭おうとして、その手を止める。

これ以上触れたら、彼女まで汚れてしまいそうで。

それでも少しでも彼女を癒したくて手近にあったティッシュで涙を拭う。

けれど溢れる涙は一向に止まらない。


・・・俺の所為、なんだよな。

ごめんと謝ると、彼女が泣きながら訴えてくる。


「・・・皐月さんが、・・・っティッシュなんかで拭くから・・・っ」


言われてはじめて、俺が思いっきり拭った所為でそこだけファンデーションが剥げているのに気付いた。

慌てて拭き方を変えるも、また彼女は違うと泣いてしまう。

これ以上どうしていいか分からなくなって、俺は彼女の頬から手を離そうとした。


・・・その時だった。


「っ・・!」


突然彼女が俺の手を掴み、潤んだ目で俺を見つめてくる。


「・・・美乃莉ちゃん?」


困惑しかなかった。

そんなに触られるの嫌だったかと、そっと手を引き抜こうとするもそれも許してもらえない。

もう、俺をどうしたいの・・・。


黙って見つめ返していると彼女の目がゆらりと揺れ、また一つ涙が落ちる。

でももう、俺にはその涙を拭ってやることは出来ない。

静かに見つめあうだけの、俺には苦しい時間の中、彼女の方が口火を切った。


その内容は思いもよらなかった事。


「私も、皐月さんが好きです」


・・・・え?


驚きすぎて声が出なかった。

パチンと瞬きをし、ごくんと唾を飲み込み、もう一度ちゃんと彼女を見る。

彼女は一瞬だけ視線を逸らしたけれど、ふうっと深く息を吸うとまたすぐ俺を見つめてきた。

戻ってきた瞳には強い意志のようなものが見えた気がした。


「あんまり会えないと思うけど・・・・私を、そばにいさせてください・・・」


少し震えた、けれど確かな声。

「皐月さん」と呼び掛ける声に、俺は信じられないような思いで彼女の手を握り返した。


「呆れてないの?」


俺なら、こんな過去がある男なんか信用出来たもんじゃない。

なのに。


「私は私の知ってる皐月さんを信じるだけですから」


目に涙を残したまま、でもはっきりとそう言って、彼女はにっこりと微笑んだ。



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