第37話 昔話 1
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静かに泣き続ける彼女にティッシュの箱を押し付けると、彼女は「すみません・・」と言いながら2・3枚取り濡れた頬を押さえた。
そして、ティッシュごと強く握り込まれた手を優しく包み、ぽんぽんと叩く。
「そんなに握ったら痛いでしょ」
「・・・はい」
彼女は、もう一つ落ちた涙を拭くと今度は優しく手の中に閉じ込めた。
ねえ、君がそんなに泣くなら、俺はどうしたらいいんだろうね?
「今度は、俺の話も聞いてくれる?」
もしかしたら嫌われるかもしれないけれど。
俺はね、誰かのためにそんな風に泣いてほしく無いんだ。
「はい・・・」
彼女が顔を上げて視線が合ったのを、俺はゆっくりと逸らす。
真っ直ぐ目を見て話せる話じゃないんだ。
ごめんね。
「俺ね、自分で言うのもなんだけど結構モテるんだ」
「・・・はい」
何の自慢かと思ってるだろうね。
でもこれはそんなんじゃなくて。
「いい話じゃないから、黙って聞いてて?
俺ね、結構最低な部類のオトコかも知れないから(笑)」
「そんな」
美乃莉ちゃんの中では俺はどういう男に映ってるんだろう。
否定するように口を開いた彼女に「聞いてて」と苦笑すると、彼女は今度は黙って頷いた。
「俺ね、実は大学時代から殆どの間彼女が切れた事が無いんだ。
でも、付き合った期間は最長で2年くらい。
大体の人数計算出来ちゃうでしょ(笑)
この2年くらいかな。完全にフリーなのって」
本当は、こんなリスクしかない話なんてしない方が良いに決まってる。
でも、君だけが悪いわけじゃないのに別れた恋人に罪悪感を強く持ってる君の気持ちを少しでも楽に出来たら。
「最低だって思う?」
俺の問いかけに、彼女はゆるく首を振る。
「・・・ありがと。
でもね、本当は俺は最低なんだよ」
殆ど毎回同じような理由で振られてる。
学習はしてる。けど、そこまでして引き止めるだけの価値を彼女達に見出せなかった。
「『私の事、好きじゃないんでしょ?
好きじゃないから、無理やりでも会おうって言ってくれないんでしょ』
そう言われて、なんて答えると思う?」
「・・・なんて、答えるんですか」
困惑気味に問う彼女に自嘲しながら答えた。
「『君がそう思うんならそうかもね』」
彼女が驚いているのが、気配で分かった。
「俺もね、恋人と仕事どっちって言われたら当然仕事を取るよ。
代わりもいないし、誰かに今のポジションを取られるのも良しとしないから」
・・・ここまでは綺麗事。
これ以上は、君はどう思うんだろう。
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