第33話 女子力欠如 side she
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皐月さんに『もしかして料理しない人?』なんてズバリ言われて死ぬほど恥ずかしかった。
今までならあっけらかんと、一人暮らしだし仕事忙しいしなんならその方が効率的でしょ?なんて笑って言えてたのに。
被害妄想かも知れないけど、皐月さんの言葉の中に『女の子は料理が出来て当たり前なんじゃないの?』という前提が見えたような気がして、そんな女の子とは正反対と言っていい自分に目の前が真っ暗になった。
最後にまともに料理した日なんて覚えてないほど前の事。
仕事のスキルアップと引き換えに女子力はどこかへ置いてきた。
辛うじてお化粧と服装だけ整えているのは母に心配を掛けない為。
数年前、暫く帰っていなかった実家にすっぴんにぶかぶかデニムで帰ると、いつも温厚で優しい母が見た事もないくらい怒った。
『いい大人が、しかも人を相手にする職業に就いている者がだらしない!』と。
昔からちゃんとしていた母は還暦を過ぎても朝からきちんと化粧をしていて、そんな母に言われると何も言い返せず、とりあえず外見だけは小奇麗にし始めて今に至る。
それを恥じた事などなかったのに。
彼の中の『女の子』の枠に当て嵌まらない自分に落ち込んで、落ち込んだ事でああやっぱりこの人を好きになってしまっていたんだと、認めざるを得ない自分の気持ちを思い知る。
もう彼の顔なんて見れなくて思い切り俯いて唇を噛んだ。
「・・・っ」
泣くな自分。
これ以上近付かなければいいだけ。
出会ってたった1ヶ月。ちゃんと話したのは今日が初めて。
このまま離れても傷はまだ浅い筈だ。
出会う前に戻ればいいだけ。
彼の理想と懸け離れてる私をこれ以上知られる前に。
涙が落ちる前に帰ろう。
そう決めて脇にあるバッグを探っていた。
のに。
「ちょ、いや。そこまで落とすつもりで言ったんじゃねえし。
俺だって自炊なんてした事ねえし、彼女に手料理とか別に強要する気も無いから!
外にいっぱい美味い店あるじゃん? コンビニメシだって美味いって思うし!」
皐月さんはこれでもかっていうくらい早口で私のフォローに入る。
「気を悪くしたならごめん。気付いた事とかすぐ言っちゃうの悪い癖なんだ。
・・・頼むからもう会わないとかは言わないで?」
そっと髪をかき上げ顔を覗き込まれて、あまりの近さに心臓が跳ねる。
「・・・・・・出会ったばかりでって思うかもしれないけど・・・好きなんだ」
その視線の強さに、我慢していた涙がほろっと落ちた。
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