第32話 つまみ問題



彼女が膝に置いた缶の中身がちゃぷんと鳴って、その缶がほぼカラに近い事に気付いた。


「どうぞセンセイ、遠慮なく(笑)」


優人の店でも飲んで数時間ぶりの迎え酒だけど彼女はこのくらいじゃそんなに酔わないだろうと、冷蔵庫から取ってきたもう1本をスッと彼女の前に置く。


これが自分の分だと気付いた彼女は恥ずかしそうに頬を染めた。


「・・すみません。人様のお宅でこんな飲み方・・」


いや別に気にしない、っていうか、どっちかといえばちょっと酔った姿も見たいなって言うのもあるんだけど。

でもさすがにそれは口にしないよ?


「さっきの騒動で酒なんか抜けちゃったでしょ。遠慮しないで飲んでよ。俺も飲むし」


ごくりと飲んで見せると彼女は「じゃあ、」と言って手の中の缶を空にし、フォークでチーズをつまんだ。


「それ、今日のイチオシ(笑) 冷蔵庫にそれしかなかったけど(笑)」


ちょっとクセのあるチーズだけど、塩気がちょうど酒に合う。

食の好みが近いならと持ったものはやっぱり彼女にも合ったようで、三角のそれを一口かじってすぐ笑顔になった。


「あ、おいしいです。

おつまみ、私も何か持って来れば良かったですよね。すみません、気が利かなくて・・・。

って言っても、ウチも今サラミと缶詰くらいしかないんでけど。

あ、コンビニで何か買ってきましょうか」


缶詰。得意だな(笑)

・・・てかさ?

もしかしてだけどさ?


ここで俺はひとつの事に気が付いた。


「ねえ、ちょっと失礼な事訊くけどさ?美乃莉ちゃん、料理しない人?」


さすがに『出来ない人?』とは訊かない。

なんか、出会いの時のカツ丼といい、缶詰といいコンビニで何かって言い方といい、さ?

もしかしてその辺までも俺と同類?とかいう?


俺が訊くと、彼女は目を見開きゆっくりと俺から視線を逸らした。


「・・・一人だと面倒で・・・作る時間があるなら寝たいって言うか・・・。

すみません。私の中身、男みたいですよね」


ぼそぼそ言いながらどんどん首が落ちて、ついには髪に隠れて完全に顔が見えなくなる。

俺は焦った。


「ちょ、いや。そこまで落とすつもりで言ったんじゃねえし。

俺だって自炊なんてした事ねえし、彼女に手料理とか別に強要する気も無いから!

外にいっぱい美味い店あるじゃん? コンビニメシだって美味いって思うし!」


ああああ、頼むから顔上げて!

別に俺、キミにそこを求めてるわけじゃないから!



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