第31話 家飲み



「あと5分したら迎えに行くから、エレベーターの前で待ってて」


普通のマンションより格段にセキュリティーの厳しいこのマンションのエレベーターは、基本自分の住居の階以外の階には止まれないようになっているから、彼女が俺の部屋に来る為には一度下に降りてロビーで待ち合わせするか、彼女にインターフォンを押してもらって俺がロックを外して上がってきてもらうしかない。

当然俺が選ぶのは前者だ。

幸い部屋は掃除したばかりで片付いているから、テーブルに置きっ放しの資料だけ本棚に仕舞い、冷蔵庫の中を確認して部屋を出た。





「お邪魔します・・・」


ドアを開けてどうぞと促すと彼女は小さくそう言って俺の部屋に入った。

服はさっきと同じ。だけど靴はペタンコのバレエシューズになっていて、10センチ低い頭の位置に悶えそうになった。

『化粧とハイヒールは戦闘服』

女性がよく言う言葉がその通りなら、今の彼女は少しだけ力を抜いて俺の前に立ってるって事で。

まあ、流石に初めての部屋で緊張はしてるみたいで、リビングに入った途端に固まってるけど(笑)


「どうぞ? 座って。あ、テレビのリモコンはこれね。適当にしてていいから」

「あ、はい・・」


先に点けないと遠慮するかなとテレビのスイッチをオンにしてからリモコンを手渡し、俺はビールを取りに冷蔵庫に向かう。

つまみになるようなものはチーズしかない。

あ、生ハムのパックもあるか。

それを適当に皿に並べビールと一緒に持って行くと、彼女はさっき点けたままのドキュメンタリー番組を熱心に見ていた。

奇しくも内容は最新医療の特集。

ちょっと失敗したなと苦笑した。


「はい、どうぞ」


プルタブを開け声を掛けてやっと俺に気付いたみたいな彼女は「ありがとうございます」と両手で缶を受け取り微笑む。

俺は一人分あけて隣に座ると彼女に向かって缶を掲げた。


「じゃあ、今日も1日お疲れ様でしたって事で。乾杯」

「かんぱい、です」


カツンと缶をぶつけ、二人して冷たいビールを呷る。

つっても俺は帰ってきて既に1本空けてるから飲むのはとりあえずの一口。

対して彼女はゴクゴクと結構な量を一気に飲んでいた。


「・・はー・・・」

「イイ飲みっぷり(笑) つまみがこんなんでごめんね(笑)」


料理スキルがあったらここでちゃちゃっとなんか作って出すんだろうけど、如何せん俺にはそのスキルがゼロなんだわ。

そのチーズだけはちょっとイイ奴だから、今夜はそれで勘弁してね。



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