第28話 初メール



彼女からメールがきたのは22時を過ぎた頃。

明日は午後からだからまだまだ時間に余裕があって、風呂入ってビールを飲みなおしていた時だ。

送信相手は知らないアドレス。

思い当たるのは一人しかいなくて、ページを開いてみると案の定だった。


タイトルには律儀に『榊美乃莉です』と名前が。


『連絡が遅くなりすみません。

突然の中座申し訳ありませんでした。

今帰宅しました。

バッグありがとうございました。お会計も。

今度は私にご馳走させてくださいね。

今日は楽しかったです。本当にありがとうございました』


初メールということもあって完全に敬語。

そして一般家庭なら遅めの時間を気にしたのだろう、結びは『おやすみなさい』だ。

ねえ、それはメールじゃなくて君の声で聞きたいと言ったら我儘だろうか。

返信メールに、彼女の真似をしてタイトルに『皐月隼人です(笑)』と入れる。


『大変だったね。

今可能なら、少し電話してもいい?』


送信してすぐに彼女から電話が入った。


「ごめんね、無理言って」

「いいえ。こちらこそ遅い時間にすみません」

「この時間なら全然遅いうちに入らないよ(笑)明日は午後からだし、飲みなおしてたとこ」


彼女に聞こえるだろうか。電話の脇でビールを振ってシュワシュワっと炭酸の音を出してみる。


「ビールですか?炭酸抜けますよ(笑)」


ああ、やっぱりメールより電話の方が良いよ。

カッチリ敬語がちょっと柔らかくなるし。


「お、聞こえた? マイク性能良いなあ(笑)」

「そうですねえ。

あ、今日はホントに色々とありがとうございました。このご恩は必ず」


ぶふ(笑)


「ちょ、なにその時代劇。そんなんいいし(笑)」


このご恩て(笑) 今日は俺ホントに何にもしてねえし(笑)

忘れてたバッグ兄に預けただけだわ。


「病院から帰る時に気付いたんです。バッグを置いたままだって。

そしたら兄から電話があって、皐月さんから預かってるって。

だから兄の店までタクシーで帰って・・・」


だから恩人なんです!って力説されても電話したの俺じゃねえし。


「今度、絶対においしいお店、ご案内しますね!」


それはそれで嬉しいけど、彼氏の座を狙ってる身としてはただお返しってのは気持ち的に寂しい。

だったらさ。


「美乃莉ちゃん、美味しいお店も楽しみだけどさ?

もし良かったら、今少しだけ晩酌付き合ってくれない?」


君が良いなら、この方が嬉しいんだけどね?




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