第18話 マサカの事実



あと数分で開店時間の店に着く直前、オーナー兼シェフの友人に電話をする。

数コールで出た友人には、先にメールで了解は取ってあるけど一応さ?


「今店の前に着いた。開店前にごめん。いい?」


友人は『オッケー今開ける』と言って通話を切り、直後に店の扉が開く。


「いらっしゃい。先週ぶり?(笑)」

「本日もお世話になります(笑)あ、榊さん、ここだよ先入るよー」


友人には簡単に挨拶し、後ろを振り向く。

と、彼女は複雑そうな苦笑を浮かべていて。

店の中に入りながら「どうかした?」と訊くと「あの、実は・・」と俺を通り越して友人を見ている。


え、何。知り合い?

まさか元彼とかじゃねえよな?

とか思いながら友人を見ると、友人は彼女を見て驚いたように声を上げた。


「美乃莉じゃん。何、皐月と一緒に来たとか言う?」


はぁ!? 何だよ。名前呼び捨て? やっぱ元彼か? そうなのか!?


「おい、どういう事?」


声色に剣が入るのはこの場合仕方ないだろう。

肩を掴み詰め寄ると、友人は笑いながらやんわり腕を外してくる。

笑い事じゃねえんだけど。


不機嫌丸出しで友人を睨み付けていると、彼女がゆっくり俺の前に立った。

・・・名前、美乃莉って言うんだ。自分で訊きたかったよ。


「あの、」「ここには来たくなかった?」


気まずそうに話し出す彼女を遮って言う。

なのに、返ってきた答えは彼女からではなかった。


「来たくはないよなあ。

兄ちゃんの店でオトコとメシとか、普通イヤだろ(笑)」


・・・ハ?

今なんつった?


「兄ちゃん?」


きっと俺は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていると思う。

嘘だろ。


「うん俺、美乃莉のお兄ちゃん。そういや末の妹は会った事なかったな」


そういえば、こいつの苗字、『榊』だわ。

いつも名前で呼んでたから意識してなかった。


「・・・とりあえず、座らして。で、ビール頂戴」


脱力した。

マジか。友達の妹とか、アリかよ。

元彼よりは大分マシだけどさあ。


「ごめんなさい、皐月さん。まさか兄と知り合いだったとは思わなくて」


額に手を当てため息をついた俺に彼女が小さく謝ってくる。

済まなそうな表情に、彼女への感情が戻ってくるのを感じた。


「名前、美乃莉ちゃんていうんだ?」


「はい・・・」


ねえ、お互い気付かなかっただけなんだから、もうそんな顔しないでよ。


「俺よりメニュー詳しい? オススメ教えて?」


ほら、一緒に美味いピザ食べよう?



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