第16話 (まだ)彼女じゃない



なーんて。

マスコミと勝負なんてする訳がない。

見つかったら最後、相手の素性は勿論、住所、親の職業まで晒され、仕舞いには偽の友人とやらまで出てきてある事ない事書かれるんだ。

別に彼女を作るなと言われてる訳ではないし、実際2年くらい前まではいた。

けれど多忙で会える時間も限られてた上に、表立ってどこかへ行くことも出来ず、デートらしいデートも行った事はなかった。

見かねた彼女の友人達がグループの中に紛れりゃ良いじゃん!とバーベキューなんかに誘ってくれたりもしたけれど時既に遅く、彼女はもう限界と俺から離れていった。

俺自身諦めてる部分もあって引き止めはしない。

そしてもう最近は特定の誰かを作ることは避けていたのに。





「ごめんね」


謝って、彼女には少し後ろを歩いてもらう。

本当なら並んで歩きたい。けどそうはさせてくれない自分の職業を今は恨む。

なのに彼女は。


「いえ。なんか、初めての事でちょっと楽しくなっちゃってるんで大丈夫です」


数メートル離れて付いてきてと言った俺に『尾行みたいですね』と笑ってくれた。

歩きながら後ろを振り向けば、それに気付いてワザと視線を逸らしクスクスとまた笑う。

なんだろう。こんなの、嫌じゃないのかな。


初めての反応に首を傾げる。

って!

まだ彼女じゃないからだよ!

普通の恋人なら並んで歩きたいって思うだろうけど、彼女にとって俺はただの、ただの・・・何だ?恩人、とか?

反応からしてファンじゃない事は確か。

だから別に横を歩かなくても手を繋がなくても問題の在りようがない。

ああ、そういえば電話番号とか渡したけど彼女からの連絡はまだ無い。

ちっくしょ。そんなに俺に興味無い?

こうなりゃちょっとワザとらしくてカッコ悪いとは思うけど、強引な手段を使うしかないか。


角を曲がる手前でポケットから電話を取り出し、彼女の方を見ながら指でトントンと叩く。


『で・ん・わ・し・て』


マスクを下ろし口パクで伝えると、それに気付いた彼女が驚き慌てながらもうんうんと頷いたのを確認しすぐにマスクを上げた。

電話が鳴ったのはその数秒後。

登録外番号で設定している電子音で彼女からだと確信する。

どうやら登録はしてくれていたらしい。

一応、後ろで彼女が耳に電話を当てているのを確認して通話ボタンに触れた。


「電話ありがと。ここ右曲がるよ」


こんなの言わなくても見れば分かるよな。

ごめん。口実なんだ。



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