第15話 ダサいと言わないで



部屋に戻ってきて一番にした事は、クローゼットを開けること。

今着てる服は別に悪くない。

ブラックデニムに白Tシャツにパーカー。

一人でコンビニに行くならこれでいい。

でもさっきの彼女に合わせるなら、もう少しカッチリ目で・・・とりあえずジャケットを着よう。

下はこのままで良いか。

ブラックデニムに・・・何を合わせたらダサくならないんだ?

バラエティー番組で何度か私服を披露してきたけど、毎回毎回「ダサい」と言われ。

俺一応人気アイドルの筈なのに「皐月隼人・ダサい」で検索されるって・・・。

こうなりゃ誰かメンバーにでも電話するか?

いやいや、みんな仕事中だっつーの。

冷静になれ俺!

下は黒なんだから、別に何色を合わせたって変にならない筈だ。


ああ!決まらないうちにもう10分経ってるじゃん!

もう、これでいい。

ブラウンに白と緑とオレンジのタータンチェック。

派手か?いや、そんなでもないよな。

ああもう出ないと遅れる!

とりあえずTシャツは洗ったやつに替えて、選んだジャケットを着る。

まあ、何着たって結局外出する時はマスクするし眼鏡しちゃうし

出来るだけ目立たないように目立たないようにと歩くんだけれども。

それでも、彼女には出来るだけ好印象を与えたいから。








「ごめん、俺から言っといてちょっと過ぎちゃったね」


慌てて着替え、エレベーターで下に降りた時には約束の時間を1分過ぎてしまって、彼女はコンシェルジュと話しながら待っていた。


「いえ、私も荷物を置きに行ってて、さっき降りてきたばかりなので」


見ると、さっき持っていたペーパーバッグが無くなり、服も白いデニムジャケットが紺色のニットに変わっていた。

身体の線に沿っているニットは彼女の胸の形を露わにして、ちょっと目のやり場に困る。


着痩せするタイプだったのか・・・。

前に見たスーツ姿はスラッと細い印象だったのに、今の彼女は、細いのは細いけど胸が・・・。


「あの、皐月さん? どうかしました?」


じっと彼女を見つめていると、訝し気な顔をした彼女が俺を呼ぶ。


はっ!いかん。

ここで躓いてる場合じゃないんだって。


「そのカッコも似合うなって思って」


慌てて繕って笑顔を向ける。誤魔化せただろうか。


「え、っと、ありがとうございます。でも皐月さんの方が素敵ですよ」


内心心臓がバクバクしていた俺に返ってきた笑顔に安堵する。


「ありがとう。こういうの久々すぎてちょっと悩んだ(笑)

じゃあ、行こうか」


コンシェルジュに挨拶し、彼女にちょっと断ってマスクと眼鏡を装着。

さあ、準備万端。

勝負だマスコミ!!




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