第13話 違うぞ、俺。
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「じゃあ、こうしない?
食事に付き合ってくれません?この後、時間が空いてたら。
仕事がひとつ飛んじゃって時間が出来たんだけど、突然だから友達誰もつかまらなくて」
コンシェルジュの前で誘ったのは、作戦って程でもないけどワザとだ。
彼は俺たちのやり取りを中継してくれていたから、なんとなくの事情が分かっている。
その彼の前では断りにくいだろうと踏み、あとは何より彼女に警戒させない為。
これが二人きりのエレベーターだったとしたら、オッケーの確率は良くて半分、かな。
「歩いていけるところに、友達がイタリアンの店出してんの。
ビールとピザが美味いよ。どうですか?」
中高大の同級生が突然イタリアに飛び立ったのは6年前。
将来父親の経営する会社を手伝う為系列の会社でサラリーマンをしていたのだが『やっぱ、諦め切れなかったわ』と奴は突然イタリアにの料理の修行に出た。
そして帰ってくるのも突然、つーかいつ帰ってきたのか久しぶりに来た連絡は
『店出すから暇な時でも来いよ。ってか、忙しくても味見しに来い』
まあ、友達だし?一応行くよね。
そしたらビックリよ。めっちゃ美味いのこれが!
だってさ、5、6年前までサラリーマンやってたんだぜ?
料理するなんて聞いたこと無かったしさ。
素直に美味いって言ったら『俺、頑張ったし?』とか笑ってたけど、コイツ本当に頑張ったんだろうなって味だった。
それ以来、家から近いのもあってちょこちょこ行ってたりする。
「ビールと、ピザ・・・」
「うん。嫌い?」
ピザが嫌いって人はあんま聞いた事無いけど、カロリーあるからな。
きゅっと握った手を顎に当てて考えてる顔を覗き込むと彼女はスッと目線を上げ
「好きです」
薄く微笑みながらそう言った。
「っ」
ドクン、と心臓が大きく鳴った。気がした。
いや、違う。違うぞ皐月隼人。
彼女が好きだと言ったのはピザの事で、俺の事じゃねえ。
「えっと、じゃあ、15分後にまたここでいい?
俺ちょっと着替えたいから。
あ、一応電話番号とかあった方がいいよね。ちょっと待って」
若干動揺しながらも手帳に電話番号とメールアドレスを書き、そのページを破いて彼女に渡す。
「これ、いいんですか」
彼女はその紙と俺に視線を行き来させて呟くけど。
良いも何も、是非とも受け取って登録してくれ。
「うん。じゃあ、後でね」
そして、堅苦しくない食事をしながらまずは名前から教えてよ。
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