第12話 念願の再会


エレベーターに乗り込み、用も無いのに1階のボタンを押す。

扉が開くとすぐ見えるところにコンシェルジュが待機しているカウンタースペースがあって、地下から上がったエレベーターに俺が乗っていれば絶対にどうしたかと訊かれる訳だ。

彼女がいなかったら、手紙を渡してもらえたか訊いてみる事にしよう。


でも出来るなら・・・


ポン、と軽い音をさせた後、1階に着いたエレベーターの扉が開く。

が、扉の前には誰もいない。

気分は一気に落ちたが、ここで黙っているのもかなりマヌケだ。

仕方なくコンシェルジュカウンターへ、と一歩を踏み出すとそこには先客がいて

その後姿を確認した俺の落ちた気分はまた一気に急上昇した。


「こんにちは」


驚かせないように、少し後ろから声を掛ける。


「っ皐月さ・・・!」


それでも振り返った彼女はすんげえ驚いちゃったけど(笑)


「先日は美味しいものをありがとう」

「あ、いえ、こちらこそ助かりました。おかげさまで患者さんも無事に回復しました」


彼女はさっきのびっくり顔から一瞬で冷静さを取り戻し、深くお辞儀をしてくる。

仕事柄、感情のコントロールも慣れているんだろう。


「いや、俺が勝手にやっただけだから」

「いえ、あの時自分で運転してたら、行きはどうにかなっても帰りで事故を起こしていた可能性が高かったと思います。

私、あの日の帰りのタクシーで行き先を言った直後からマンションまでの記憶が無いですし」


言って、彼女は苦笑する。

おお、そりゃヤバイ。やっぱ行動して良かったわ。


「だから、本当はちゃんとしたお礼をしたいと思っていたのですがあまり良いものが思い浮かばなくて、あんな簡単なものになってしまって・・・」


いや、礼が欲しくてしたわけじゃねえし。

つーか、あの缶詰めっちゃ美味かったし。


「それなんだけどさ、俺ねあの貝の缶詰めっちゃ気に入ってネット注文したんだよね。

この辺じゃ売ってないじゃん?

刺身も好きなんだけど、あれはあれでマジ美味かった。

こっちこそ良い物教えてもらってありがとって思ってんだけど」


いつも似たような晩酌の肴メニューのバリエーションがちょっと広がって、その時間がまた少し楽しみになったし。


「それは、良かったです。けど・・・」


俺はあれで十分なんだけど、君はそれじゃあ気が済まない?

ねえ。そんな困ったように笑ってると、俺、付け入っちゃうよ?




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