第10話 久しぶりな姿


コンシェルジュに手紙を預けた翌日、彼女を見かけた。

昼少し前、迎えに来たマネージャーの車に乗ってマンションを出ると

前に見たスーツとはだいぶ印象の違う紺色のふんわりした膝下スカートにクリーム色のデニムジャケットを着た彼女がちょうどマンションから出てきた。


エレガントな小ぶりなバッグを手に持ち、足元は結構高めのヒール。

その姿だけなら、モデルといっても通用するかも知れない。

すぐ先の信号待ちでゆっくり走ってるのを良い事にじっと目で追っているとマネージャーがボソッと呟く。


「・・・あんな綺麗な人、住んでるんですね」

「は?」


彼女から視線を逸らし前を見ると、バックミラー越しに合ったマネージャーの目が鋭く光った。


「知り合いですか?」


俺に付いて数年のマネージャーが、視線だけで牽制してくる。

スキャンダルだけにはならないように、と。


「・・・エレベーターで挨拶くらいしたことあるけど、名前も知らねえよ」

「そうですか。『なにか』あったら、言っといて下さいね」

「ねえよ」


探るような視線に若干睨み返すと、少し年上のマネージャーは困ったように笑った。


「皐月さんに限って変な事はしないと思ってますが、先に知っていると知らないとでは有事の時の対処が変わってきますから。それだけですよ」


けして邪魔をするなどの意図は無い。

って言いたいんだろうけど、今回に関してはマジでねえんだよ。

知ってるのは苗字と職業と職場だけ。

『まだ』何事も起きてない。

視線を外に戻すと、もう彼女の姿は見えなくなっていた。


「・・・やっぱさあ、全然会えねえって難しいかなあ?」


多分、こんなに気にしてるのは俺の方だけだろう。

ああくそ。やっぱ連絡先・・・!


がりがり後頭部を掻いているとマネージャーがひとつため息をついた。


「・・さっきの方ですか?」


声色は穏やかで、反対しているという雰囲気は感じられない。


「・・・医者なんだよ」

「ああ・・・。それは大変ですね」

「エレベーターで彼女の電話が鳴って・・・さっきまで壁に寄りかかって寝てたのに

電話鳴った瞬間にバチッて目え覚まして、冷静に看護師に指示してた。

それから、3週間以上全然会わない。んでさっき」


第一印象からは大分離れたけど、歩く姿は背筋がピンと伸びて綺麗だった。


「・・・片思いですか」

「まだわかんね」


でも気になるのは気になるんだよ。



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