第8話 悩んだ贈り物 side she



起きたきっかけは一本の電話。

プライベートの電話も、病院からの電話は院内電話と同じ着信音にしていた。

その着信で一瞬にして目が覚め、すぐ隣に立ってる人を見て内心ものすごく驚く。


けど今は電話のほうが大事。


急患と急変の連続で医師が足りなくなったとの連絡にすぐ戻ると返事をすると、突然の皐月さんからの病院まで送ってくれるとの申し出。

さすがに断ったけど、彼はさっきの私の醜態に患者さんの方を心配してくれたらしい。

結局ありがたくそれを受け、言われるまま車の中で腹ごしらえまでさせてもらった。


幸い患者さんも大事は至らず、翌朝にはしゃべれるまでに回復。

私も家に帰ることが出来た。


あの時のお礼とお詫びの意味を込めて何か、とちょっと調べたら皐月さんは食べる事が好きだとあったけど、いきなりご飯にお誘いするわけにもいかないし、たった1度会っただけの私にそんな事をされても逆に迷惑だろう。

絶対に多忙だろうし、いつまた会えるかも分からない。

そうなると必然的に食べ物ではモノが限られてくる。

よくある焼き菓子セットとかもらって喜ぶかなあ?

今度は彼の好物について調べて見ると魚介類が好きだとあり、品物はそっち系で行くことに決めた。

でもその辺で買える物なんて貰ってもしょうがない。

ネットで良さげな物を数点注文し、一応味見してビールを入れた袋の脇に詰め込んだ。





注文した出前の到着の連絡に下に降りると、ラップをしたお盆の上に白い封筒が。

そこには、律儀そうな字で「榊さんへ」と書いてあった。


井上さんに受け取りのお礼とご飯の代金を渡して部屋に戻り、そっと封筒の上部をはさみで切る。

そこには、あれは私からのお礼の品だったのに、逆に『いいものを頂いてありがとう』とお礼の言葉が綴ってあった。

あとは出来れば直接会ってお礼が言いたかった事や、私の体調を気遣う言葉。

そして最後には、食の好みが合いそうだから、もし良ければ一緒に食事でもと・・・。


でも最後には彼の名前だけ。

これは一種の社交辞令と受け取った方が良いんだよね。

国民的アイドルがごく普通の一般人を簡単に誘う訳が無い。

私は、とりあえず彼に贈ったものが口に合った事だけを喜びながら少し遅めの晩御飯を食べると、お風呂は明日の朝にと決めてそのままベッドに横になった。


あ、お返事、なんて書こう。


眠りにつく前に考え始めたけれど、枕詞も思いつかないうちに、私は意識を手放した。



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