第6話 連絡手段
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なんとなく勿体無く感じて、貰った缶詰は数日に一缶ずつしか開けてなくとも
さすがに2週間もすりゃ無くなるに決まってる。
その間、そのうち会うだろうと思っていた彼女にはただの1度も会えてはいない。
俺も大概忙しいし時間だって不規則だけどさあ、こんなに会わないもん?
最初のあの日、彼女が車で病院に向かおうとしてた事で普段は車通勤なんだろうとアタリをつけ
仕事の送迎時に駐車場をぐるりと見てみても、彼女らしき影さえも無い。
その辺で買うのが難しいちょっとイイ缶詰はめっちゃ美味くて、思わずネットで調べて注文した。
それもあって、彼女に会ったら俺のほうこそ礼を言おうと思っているのに。
やっぱ下にメッセージを預けるしかないか・・?
言葉だけの礼は人伝いに聞くと感情が見えなくてあまり好きではないけど、現状、背に腹は替えられない。
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「これ、榊さんに渡してもらえますか」
翌朝、少し残念に思いながらメッセージを入れた封筒をコンシェルジュに渡す。
「本当は直接会ってと思ったんだけど、全然、一瞬たりとも会わないから。
代わりにお願いします」
同じような事を封筒の中にも書いて入れてあるのだから
本当なら彼にはただ一言『お願いします』でいいのだろうが
いい大人の二人が何故こんな回りくどい事をしているのか言い訳がましく言ってしまっていた。
いつも同じく穏和そうな微笑みを浮かべている彼はそんな俺の心情など気にも留めていないように
「かしこまりました。必ずお渡しいたしますね」と封筒を受け取る。
「うん。お願いします」
彼の仕事上のルールとはいえ深く詮索されることも無く渡せたことにホッとする。
あの手紙がいつ彼女の手に渡るのかは分からないけれど、そうなれば義理堅い彼女の事だから
また何かしらのアクションをしてくれるだろう。
そうだな、出来たら次は顔を見て話したい。
一目惚れなんてした事は無い。
けれど今の俺はたった一度会っただけの彼女の事を知りたくてたまらなくなってる。
ああ、やっぱり連絡先も書いておくべきだっただろうか。
推測される彼女の性格なら書いても電話じゃなく同じ手紙で返されるかも知れないけれど
もし好意的なら連絡先をくれるかも。
軽い男と警戒されるのを懸念して手紙の最後を名前だけにとどめた事を少しだけ後悔した。
お互い忙しいんだし、余計な遠回りはしない方が良いに決まってる。
とりあえず、下の名前くらいは早急に知りたいし。
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