第5話 予想外なお礼


あれから、彼女のことを少し気にしつつも連絡先も知らないしと、普段通り過ごしていた。

そして、あの日からちょうど1週間目の昼近く。

出る準備をしていると、普段はほぼ鳴る事の無いコンシェルジュからのインターフォンが鳴った。


「はい?」


コンシェルジュが連絡をしてくるのは、荷物が届いた時や出前の受け取りの時くらい。

でも今日はそのどちらの予定も無かった。

なんだろうと思いつつ通話ボタンを押すと

預かり物があるから部屋まで届けても良いかと言う伺い。


「すぐ下の階の、榊様からお預かりしたものですが、どう致しますか?

食品だということですが」


さかき、って・・・ああ、あの女医さん。

つーか、なんだ?この前の礼って事?しかも


「食品ですか」


・・・まあ、下に預けるくらいだからナマモノではないのだろうが。

中身が食品じゃ受け取るにしても返すにしても後でにはしておかない方がいいだろう。

コンシェルジュには「お願いします」と返事をし、それを待つ間にパジャマ代わりのスウェットの上下を着替えることにした。


3分もしないうちにチャイムが鳴り、ピシッとしたスーツのコンシェルジュが少し大きめの白い紙袋を持ってきた。

いわゆる、ホールケーキを入れる袋のような。

でも、中身はそうではないらしい。


「『先日はお世話になりました』と言付かっております。

少し重さがありますので、下を支えて頂いた方がよいかと思います」


そう言われて、紐を持つと同時に袋の底に手を回した。


・・・この重さ、食いもんじゃなくね?


袋は中身が見えないように包装紙が掛けられていて、何だろう?と考えているうちに

コンシェルジュは用件は終わったとばかりに「では私はこれで失礼致します」と出て行った。

ドアが閉まると同時に、中身を隠していた包装紙をべりっと剥がす。

すると入っていたのは、


「・・・晩酌セット(笑)」


思わずフハッと吹き出した。

袋の中身は、ビールの6本セットと、ホタテの干し貝柱1袋と、ちょっと良いツナ缶に

同じくちょっと高級な貝の煮込み缶、焼き鳥缶・・・そりゃ重いわけだわ(笑)


・・・これ、わざわざ俺の好物とか調べたのかな?

おそらく彼女は俺にそれほど興味は無いだろう。

この間の感触で思った。

それでも絶対に俺以上に忙しい彼女が、たかだか数十分の礼の為に動いてくれた事を思うと

その義理堅さに誠実な人柄が垣間見えて、エレベーターで寝る変な女の印象は完全に消えていた。



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