第2話 ありえない女の意外な職業
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ポン、と独特な音をさせエレベーターは目的の階に着いた事を知らせた。
・・・のに、隣に立つ女性が動く気配は無い。
え・・・?
その状況に、ザアッと身体に緊張が走る。
帽子以外は特に変装もしていないから、知っているなら俺だとバレてるのは間違いないだろう。
ここに入れるんだから、相手は住人、か、それに近い人。
さて、どうやって逃げる?
頭の中はストーカー対処法でいっぱい。
でも下手に動くと相手を刺激するだけだ。
まずは普通に・・・。
「着きましたよ?」
ゆっくりと顔を向け、目を閉じたままの彼女に出来るだけ穏やかな声で話しかけた。
・・・って!
まさかこの人・・・!!
「ウソだろ」
思わず声に出たよ。
靴音をさせて近づいても、相手はすうすうと規則正しく呼吸をしたまま。
覗き込んだ瞬間、かくんと首が落ちた。
「っと」
こんな、たかだか数十秒で寝るか?
しかも立ったまま!
寝るの大好きなうちのメンバーでもせめて椅子に座るぞ。
「ちょっと」
軽く肩を揺すると、持っていたコンビニ袋がゲシャッと下に落ちた。
それでも女性は起きない。
どんだけ。
え、これどうすりゃいいの。
さすがに放置していくわけにもいかないし。
俺んちに連れて行くのも完全に他人だし、かなり抵抗がある。
コンシェルジュに連絡するか・・・
バッグから携帯を取り出し番号を検索していると
pipipipi・・pipipipi・・
今時の着信メロディじゃない、無機質な電子音が箱の中に響く。
その時だった。
今の今まで、声を掛けても揺すっても起きなかった彼女が突然パチッと目を開け
スーツのポケットから携帯を取り出すと、画面も見ずにすぐそれを耳に当てた。
「はい榊。どうしました?」
出した声は極めて冷静で、さっきのダルそうな挨拶とは比べ物にならない。
彼女は電話の最中にやっと俺がすぐ傍にいることに気付いたのか、
えっ!という表情で目を見開いた。
しかし電話は余程大事な内容なのかすぐに俺から視線を逸らす。
「戻るのに15分くらいかかりますが、当直の青山先生は?
・・・そうですか。研修の今井さんはいますか?
あ、今井先生?藤堂さんの点滴の処方お願いします。
私も戻りますが、青山先生が終わり次第すぐ呼んでください。
それから・・・」
話の内容からするとどうやら職業は医師らしい。
つーか、この人自分で運転して病院まで行く気か?
バッグを漁って車の鍵を取り出したのを見て、俺の方が驚愕した。
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