はた迷惑な彼女~多忙過ぎる女医とアイドルの恋愛~

月湖

第1話 深夜の出逢い

週に二度、俺はアイドルでありながら月・木曜日の夜の報道番組でキャスターを務める。

緊張の生放送とその反省会を終えて帰宅するのは日付の変わった午前2時。

送ってくれたマネージャーと別れ、地下駐車場から直接上がれるエレベーターに乗り込む。

ここに引っ越してきて、この時間に途中で乗ってくる人にまだ会った事は無い。

部屋の階のボタンを押し箱の壁に背中を預けると、今日一日の疲れが一気に身体を重くした。

スゥッと箱が中に浮く感覚と同時、気休めでしかないとは分かっていても着くまでの数十秒と目を閉じる。


しかし、イレギュラーというのはあるもので。

いつもならノンストップで上階まで上がって行くエレベーターがすぐ上の1階で止まった。

カードキーを翳さなければエレベーターどころか入り口の自動ドアすら開かないのだから乗ってくるのは同じ住人なのだろうが、職業病的につい身構える。

しかしあからさまに俯くのもどうかと思い、少しだけ視線を外しながらも入り口を窺うと

厚いドアが開いて入ってきたのは、ビジネス仕様のクリーム色のパンツスーツの女性だった。


こんな時間に仕事帰り?

まあ俺もだけどさ。

彼女の手にはコンビニの袋。微かに、・・・何だろうカツ丼系?の匂い。

こんな夜中にそんな重いもん食うのか。

いやこの人の勝手だけども。


「こんばんは・・・」


乗ってくる時にそう声を掛けられて驚いた。

はっとそちらを見ると彼女はもうボタンパネルの前に移動していて、そして、俺の部屋の階のすぐ下のボタンを押した。

ワンルームが多いのは下層階で上階層ほど部屋数が少ないし、そもそもこのマンション事態の家賃も結構高い。

家族で住んでるのか?

いや別にどうでもいいんだけど。


女性は俺とは反対の壁際に寄り掛かり、はあ、とひとつため息をつく。

酒の匂いは感じない。お疲れか。俺も同じだ。

ああ、そういえば挨拶を返すタイミングを失った。

ちらりと女性を見ると、目を閉じて周りを遮断している。

次・・・いつ会えるか知らないけど、また会うことが会ったら声を掛けよう。

そんなことを思いながら視線をボタンパネルに戻した。



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