閑話 ウルスの休日 4

 脳筋ローアンが俺にふってきたせいで、なんて、言えばいいのか……。

 休みモードだと、頭が動かないんだが……。


 没落したあの伯爵家ですね。……じゃなくて、昔、栄えてましたよね。も、当然ダメだよな……。


 あ、そうだ!


「もちろん存じてますよ。由緒ある伯爵家ですからね」

と、御令嬢であるロクサーヌ嬢にむかって言った。


「まあ、光栄ですわ」

と、ロクサーヌ嬢は艶やかに微笑んだ。


 セーフ! 良かった……! 


 しかし、ロクサーヌ嬢と、ローアンの婚約者のマリー嬢は、あまりにもタイプが違う。


 素朴な印象のマリー嬢とは違い、ロクサーヌ嬢は派手な雰囲気の美人だ。

 ドレスにしても、地味目のマリー嬢。派手目のロクサーヌ嬢。

 二人の共通項が見いだせない。


 まあ、全く違うタイプが友人と言うのはよくあることだが、この二人からは、親し気な空気感みたいなものも伝わってこないんだが……。


「お二人は、お友達なんですか?」

と、つい気になって聞いてみた。


 すると、マリー嬢が、おっとりと微笑みながら答えた。


「実は、今までロクサーヌさんとは、あまりお話したことがなかったんです。でも、私がローアンに王都へ会いに行くんだけど、一緒に行ってくれるはずの友達が行けなくなったから不安だって、学園で話していたら、ロクサーヌさんが声をかけてきてくれたんです。王都のことは、良く知っているから、一緒にいきましょうって。私、ほっとして……。親切な方でしょう?」


「私は、以前、王都に住んでましたから。久々に、遊びに来たいと思っていたので、ご一緒しましょうと、マリーさんに声をかけてみたんです」

そう言うと、華やかな笑みを浮かべたロクサーヌ嬢。


「おお、ロクサーヌさんは優しいなあ! な、な、ウルス! おまえもそう思うだろ!?」

と、またもや、やたらと大げさに俺に同意を求めるローアン。


 俺に出会いをと思ってくれているんだろうが、脳筋が気を使うと、余計に変な空気になる……。


 そんな、ローアンをにこにこしながら見ているマリー嬢のふところの深さに、ほんと感動するわ!

 俺が女なら、こんな婚約者は絶対に嫌だ。


 ローアン、おまえを受け入れてくれる稀有な存在に出会えて、本当に幸運だったな! 絶対に逃すな! 


 すると、今度はロクサーヌ嬢が俺の目をじっと見ながら、聞いてきた。


「ウルスさんは、王太子殿下の側近でいらっしゃるんでしょう? すごいですよね! いつからなんですか?」


 大きな黒い瞳は少しうるっとしていて、すいこまれそうになる。


「王太子殿下とは幼馴染で、学園を卒業してからは、側近として働いています。なので、子どもの頃から、ずっと一緒にいますね」

と、俺が答える。


「まあ、そんなに王太子殿下に信頼されてらして、すごいわ! 大変なお仕事をされているんですね。尊敬します」

 

 そう言って、ロクサーヌ嬢が、うるうるとした瞳で見つめてきた。

 久しくなかった状況にドキッとする。


「そうなんですよ! ウルスは、王太子様と常に一緒にいるくらい、一番、信頼されてるんですよ! 将来有望ですよ! そして、婚約者もいません!」

と、前のめりで、ロクサーヌ嬢に話すローアン。


 恥ずかしいから、やめてくれ……。


 が、ロクサーヌ嬢はそんなローアンを気にした様子もなく、俺だけを見つめて、恥じらうように微笑みながら聞いてきた。


「あの……、ウルスさんは宿舎に住まわれてると最初にお聞きしましたが、ご実家はどちらなんですか?」


「実家は王都にあります。ただ、仕事が忙しいので宿舎に住んでいますが、王宮まで通える距離です。馬車なら30分くらいでしょうか」


「まあ、便利なところにご実家があるんですね! うらやましいですわ。私も、王都に住んでいたころが懐かしくて……。また、いつか、こちらで住みたいと思ってるんです」

と、俺の目を見つめながら、美しく微笑みかけてきた。


 なんだか、熱量を感じるんだが? 気のせいか? 俺の思い過ごしか?

 それとも、もしや、こんな美人が、俺を気に入ったのか……!? 

 いや、まさかな……。 

 でも、もしかして、もしかするかも……。

 と、考えをめぐらせていたら、ローアンのでかい声で現実に引き戻された。


「ロクサーヌさん! それなら、ウルスはお買い得です! 実家は、堅実なブライト子爵家で、気楽な次男坊。王太子様の側近で、ずっと王都住まいは確定しているからね!」


 俺をアピールしてくれてるんだろうが、セール品みたいな気持ちになってきた……。

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