閑話 ウルスの休日 3
翌日、満を持して、フィリップからの誕生日プレゼントのセットをクローゼットからとりだした。2度目だから、まるで使用感はない。
まずは、白いフリルのシャツを着て、グリーンのジャケットを羽織る。
そして、鏡で見てみた。
見慣れない服装で違和感があるが、これが自分に似合っているのか、似合っていないのかが、よくわからない……。
が、ふと俺はひらめいた!
もしや、この白いフリルのシャツが似合っていないのかもしれないと。
ということで、手持ちのシャツに替えてみる。仕事で着たおしている分、くたっとしたシャツだ。色は同じ白だから、いいんじゃないのか?
なにより落ち着く。馴染む。うん、これにしよう。
グリーンのジャケットと、中の仕事用のシャツの質の差が激しいが、見てもわからないだろう。
ということで、納得のスタイルができた俺は余裕をもって、早めに出かけることにした。
カフェ・フローリアンに着くと、店員さんが聞いてきた。
「お一人ですか?」
「いえ、待ち合わせをしていて……」
と言いかけたところで、
「おおー、ウルス! こっちこっち!」
と、店の雰囲気をぶち壊すような、でかい声が聞こえた。
奥のほうで、手をぶんぶん振っているローアンだ。
その瞬間、帰りたくなった。やめろ……。恥ずかしいだろう!?
「お連れ様ですか?」
と、店員さんに聞かれ、
「まあ……、そうです……」
と、小さい声で答えた。
店員さんに案内されると、そこにはローアンだけが座っていた。
ローアンの隣の席に座らされる。
が、その途端、ローアンが、
「どうした、ウルス。もしや、仮装か!?」
と、聞いてきた。
「はあ!?」
「いや、だって、その服……、借り物みたいだけど?」
本当に失礼な奴だな。
「これは、王太子にもらった服だ」
「えっ? 王太子様から? なんつーもん着てくるんだ!?
……あ、そうか。ウルス、それだけ気合いが入ってるんだな!」
と、ローアンがにやりと笑った。
断じて違う。他に選択肢がなかったからだ……。
そして、ローアンはと言うと、何故か騎士服を着ている。
「なんで、おまえは騎士服なんだ!?」
と、いらだちながら聞いた。
普段着は俺と大差ないくせに、5割増しに見えると噂の騎士服を着るだなんて卑怯だろ。
「マリーが、あ、俺の婚約者な。俺の騎士服を着た姿が見たいって言うから」
と、照れくさそうに言った。
「ふーん、良かったな……」
「まあ、ウルスもいいんじゃないか? 俺も服のことはよくわからんが、王太子様のくれた服なら、おしゃれなんだろ」
と、ローアンが何故かなぐさめるように俺に言う。
「ただ、中のシャツが、どうもボロッちく見えるんだが、気のせいかな……?」
と、つけたした。
げっ、やばい! 脳筋ローアンに見抜かれた!
俺は素知らぬ顔で言った。
「気のせいだろ」
ここは隠しておかないと、こいつは何でもしゃべるからな。
「それで、おまえの婚約者は?」
「友達を近くまで迎えにいってる。……あ、ちょうど、戻って来た」
そう言って、店の入り口のほうを見た。
女性が二人、こちらへ向かってきている。
決して期待しているわけではないが、慣れない状況に、仕事の時とは違う緊張感がおそってきた。
そして、二人の女性がやって来た。
「マリー、ほら、座って。それから自己紹介しよう!」
と、やたらと張り切っているローアン。いつも以上に声が大きい。
マリーと呼ばれた女性が、テーブルをはさんでローアンの前に座る。
そして、もう一人の女性が俺の前に座った。
まず、ローアンが、二人に向かって言った。
「これが、話していた友達のウルス。俺と同じ年で、王太子様の側近で将来有望。なんと今着ている服は、王太子様のプレゼントだそうだ!」
おい! いきなり、それを言うか!?
思ったとおり、こいつは、なんでもしゃべるな……。
「まあ、王太子様から? すごいわ!」
そう言って、ローアンの婚約者が、ふわりと微笑む。
おっとりとした雰囲気の人だ。
とりあえず、おしゃれにうるさくなさそうなので良かった……。
内心、ため息をつきながら、とりあえず挨拶をする。
「ウルス・ブライトです。よろしくお願いします」
「マリー・ゴードンです。ローアンが迷惑をかけていませんか? このとおり、うるさいので」
と、にこにこしながら聞いてきたローアンの婚約者。
「いえいえ」
と答えたものの、このうるささを笑っていられるとは、心のひろい女性だなと感心する。
少しぽっちゃりして、優しそうな人に見える。
いい人が見つかって良かったな、ローアン。
そして、次に俺の前に座る女性が口を開いた。
「ザクセン伯爵家の長女、ロクサーヌと申します。よろしくお願いします」
と、俺の方をむいて微笑んだ。
マリー嬢とは全然違う、派手な雰囲気の美人だ。
しかし、ザクセン伯爵家? 聞いたことがあるな……。
あっ!
没落して王都の屋敷を引き払い、郊外の領地へと引っ越したあのザクセン家か!?
「ウルスなら知ってるんじゃないか? 王太子の側近だから、伯爵以上の貴族は、どうせ、すべて頭にはいってるんだろう?」
と、ローアンが聞いてきた。
いやいや、騎士でも頭に入れてる奴は多いぞ。
そして、この微妙な問題を俺にふるな! この脳筋め!
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