挿話 王太子の受難 11
「ロンダ国の第二騎士団長のブリート殿。こちらこそ、遠路、引き取りに来ていただいて、感謝します。……未来永劫、その女は出国禁止でお願いしますね」
僕は騎士団長に向かって、愛想よく微笑みかけた。
すると、わが国の騎士に羽交い絞めにされているべラレーヌ・ボラージュが、僕を憎々し気ににらみつけた。
「アランみたいに、あの表情のないルイス王子も薬漬けにしてやりたかったわ! そうすれば、この国を私の思うようにできたのに! ほんと残念!」
そう叫ぶと、狂ったように笑いだした。
今、なんて言った……?
おまえのように、汚れた人間がルイスの名前を口にするだけでも許せないのに、おぞましい妄想を言ったよな!?
……気が変わった。
「第二騎士団長、ブリート殿。悪いが、この女は渡せない。こちらで引き取らせていただきたい」
怒りを含んだ、僕の言葉に、
「え?! それはどういうことでしょうか……」
と、ロンダ国の騎士団長が、とまどった顔をした。
「今、この女、べラレーヌ・ボラージュは、わが弟の第二王子ルイスを侮辱するという、これ以上ないほど重い罪を犯した。よって、こちらで裁かせてもらう!」
「いやいや、それは困ります! わが国に連れて帰って、法によって裁かなければなりませんから……」
あわてたように言う、ロンダ国の騎士団長。
「じゃあ、こちらで先に裁いて、罪を償わせた後に、ロンダ国に移送するから。それなら大丈夫でしょ。……まあ、生きてないと思うけどね?」
そう言って、僕がにっこり微笑むと、ロンダ国の騎士団長の顔色が一気に悪くなった。
「いや、……そんなことされたら、困ります!」
そこへ、母上がものすごい圧で、割り込んできた。
「おい、フィリップ! なに、訳のわからんことを言っている! たかだか、ルイスの名前がでたくらいで、いちいち、切れるな! それでも、我が国の王太子かー!」
と、母の怒声が響く。
すごい声量に、そばにいるロンダ国の騎士団長が耳をおさえた。
が、ここはひけない。
「王太子よりも、僕はルイスの兄です! こんな最大の侮辱、許せるわけがないでしょう!? この女には最大限の苦しみを味わせます!」
と、母上に向かって、怒鳴り返す。
笑っていた女がぴたりと黙り、怯えた顔で僕を見た。
まあ、今更、怯えても遅いけどね?
「いくらなんでも、それはまずいだろう……」
と、ウルスが隣でぶつぶつ言っている。
母上が、僕に近づくと、いきなり胸倉をつかんだ。
さっき、僕ぼくに、切れるなと注意したくせに、自分は、キレッキレの顔をしてるんだけど……。
しかも、ほんと、馬鹿力だよね。
母上は胸倉をつかんだまま、ものすごい声量で怒鳴った。
「なら、即刻、王太子をやめろ! やめてしまえ! ルイスでも、ウルスにでも、変わればいい!」
「王妃様……。ここで、なんで、関係のない俺をまきこむ……!?」
と、隣で、悲壮な声をあげるウルス。
あきらめろ、ウルス。
この脳筋の母上は、ルイスとウルス、似た音の響きで、セットみたいに覚えているだけだからね。
だから、僕は子どもの頃、言ったよね?
ウルスでなく、ウルルに名前を変えろって。
聞いとけばよかったのに……。
しかし、首が苦しいな……。この馬鹿力!
が、ルイスにことを思うと、負けてはいられない。
僕は渾身の力で、母上をふりほどいた。
そして、宣言した。
「ルイスが王太子になりたいと言うのなら、いつでも、王太子の座を変わりますよ!」
「ルイス、ルイス、ルイス……! おまえは、なんで、ルイス離れができないんだー!」
と、怒鳴る母上。
「するつもりはないね!」
と、言い返す、僕。
そこへ、
「二人とも、いい加減にやめなさい……。ロンダ国の騎士団長が驚かれているだろう?」
と、言ったのは父上だ。
あ、父上、いたのか……。影がうすくて、すっかり忘れてた。
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