挿話 王太子の受難 4

「あ、そうだ。ウルス。一応、母上にも連絡とっといて。過程を話しとかないと、結果だけ話したら、めちゃめちゃ怒るから、あの人。ほら、根っからの騎士だし、報告を怠るな、ささいなことでも知らせろって、うるさいからね」

と、僕はウルスに言った。


「なんで、王妃様に……? あ、そうか! ロンダ国って、王妃様の辺境と国境をへだてた隣国。そういえば、王妃様が先日、言われてた話……。もしや、フィリップは、今回のこととあの件が関わっていると思ってるのか?」

と、ウルスが驚いたように聞いてきた。


「今はまだ、僕の予想にすぎないけど……。でも、めぐりめぐって、ルイスに迷惑をかけたりしたら、そっちのほうが許せないし、きれいにしとかないとね」

と、にっこり微笑んだ僕。


「目が笑ってなくて怖いな……」

と、ウルスはつぶやいた。


 そのあと、気を取り直したように、

「王妃様がおっしゃっていた話に関わっているのなら、騎士団を動かすか?」

と、聞いてきた。


「いや、今回は隣国も絡んでるいし、慎重に、かつ早急に探ってもらうから、王室の密偵に頼んで」


「で、フィリップは、一番どこを狙ったらいいと?」

と、ウルスが聞いてくる。


「もちろん、ボラージュ伯爵がブルーノ伯爵に輸出しているワインだっけ? そこを念入りに調べてね。あ、倉庫もねー」


「了解」


「じゃあ、まあ、こっちは、密偵の報告待ちとして、あとは、兄様として動かないとね」


「兄様として動くって、一体、なにをするんだ……?」

と、ウルスが、いぶかしげに聞いてきた。


「あのウルスに話しかけた令嬢、べラレーヌ・ボラージュだよ。だって、不自然に、ルイスと接近したんだから、理由を聞いとかないと安心できないよね」


「だが、怪しいといっても、ルイスに接近したのは、ほんのちょっとだけだっただろう? 道を聞いただけらしいから、特に害はなかったし……」


「害があってからでは遅いよっ!」

と、僕は声を張り上げた。


「過保護すぎるだろ……」

と、ウルスが引いた目で見ているが、関係ない。

 

「ほんの1秒であっても、また、その度合いが重かろうが、軽かろうが、邪な気持ちでルイスに接する奴を、僕が見逃すわけないだろう? ルイスは、兄様が守る! なんていったって、僕は誓ったんだからね! 幼いルイスに、僕が誕生日プレゼントのぬいぐるみをあげた時……」

と、言ったところで、ウルスが、大きな声でさえぎってきた。


「ああ、わかった! わかったから! だから、それ以上は、やめろ! やめてくれ! 俺が変なことを聞いてしまい、すみませんでした! 間違っていました!」


 ウルスが、やけくそ気味に謝った。


 なぜ、ここで止める。ここからがいいところなのに? 

 忘れているのなら、今度、じっくり、ウルスに話しとかないとな。



 数日後。

 密偵から報告書があがってきた。


「やっぱり、想像どおりだね……。なんというか、単純すぎてびっくり。でも、手間が省けた。至急、母上にも報告しといて。あ、それと、ブルーノ伯爵夫人にもすぐに連絡して。紹介してくれると言っていた令嬢と会いたいと、王太子が言っているってね。それと、ブルーノ伯爵とも久しぶりに話がしたいから、一緒に来てくれるよう頼んどいて。絶対に、逃がさないから……。あ、それと、くれぐれも、ルイスには気づかれないように。花壇づくりに集中してるから、こんなどうでもいいことを耳に入れて邪魔したくないからね」


 そう言って、作業用の服を着たルイスを思い出して、思わず、笑みを浮かべる。


「思い出し笑いか。その顔、怖いな……」


 ウルスがおびえたように言った。


 ほんと、ウルスは全然わかってないね。

 思い出し笑いもなにも、ルイスを思い出して、顔がゆるまないなんて、そんなこと絶対に無理だから!




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