俺は出会った 14

 その時だ。

 

 ふと、窓の外に輝くものが見えた気がした。

 あわてて、窓辺に近寄ってみる。


「アリスがいる……!」


 庭で花に囲まれているアリス。そこだけ、きらきらと発光して見えた。

 やっぱり、どうみても妖精だ。本当にかわいいな……。


 マークも窓辺に近づいてきた。


「あ、ほんと、アリスだ。今日は夕方まで出かけるって聞いてたけど、帰って来たんだな。……っていうか、ルイス。アリスのことになると、なんで、すぐにわかるんだ? 結構、距離もあるのに。ほんと、怖いな……。ここからだと遠いが、叫んだら俺たちに気づくかも。呼んでみようか?」

と、マークが言った。


「いや、やめろ。月一回、お茶会でだけ会う約束だから、ルール違反で嫌われたくない。しかも、アリスの屋敷に来てるだなんて、偶然ばったりというわけではないから、卑怯だろ。言い訳もできない」


 再度、俺の気持ちをマークに説明した。


「……ほんとに、なんなんだ、その考えは? ルイスが不器用すぎて、不憫で泣けてくる……。しかも、その生真面目さすら、全くアリスに伝わってないなんて、号泣ものだ」


 マークが憐れむような目で俺を見た。


 が、俺は気にすることなく、窓の外のアリスを見ている。

 この部屋からは距離があるから、静かに見ている分には、向こうからは気づかれない。安心して、観察できる。


 ……が、あれは誰だ?


 俺は目をこらした。幻覚じゃないよな? 


「どうした、ルイス? なんで、そんな怖い視線を向けてるんだ?」

と、マークが訝し気に聞いてきた。


「アリスの隣に、目障りな何かがいる……。なあ、アリスの隣にいる邪魔な男はだれなんだ?」


 気が付くと、俺の口から、地をはうような声がでていた。

 マークが、窓の外を見た。


「ああ、あれは、庭師のカールの息子で、ロンだ。庭師の見習いなんだが、今、ちょうどカールが腰を痛めて休んでいるから、ロンがうちの庭を全部見てるんだ」


「……アリスは、その男とよくしゃべるのか?」


 窓の外をにらみつけながら、俺は聞いた。


「まあ、ロンは庭師のカールについて、幼い頃から、ずっとうちに来てたからな。俺とは同じ年だし、よく遊んだ。まあ、幼馴染だ。アリスにとったら、兄みたいなもんだろう」


 マークがそう言った瞬間、俺はマークを振り返った。


「こわっ! ルイスの眼光が鋭すぎて、顔が怖いんだけど……」


 怯えるマーク。

 が、俺の顔は、どうだっていい。


「それより、マーク。庭師の見習いは、女性のほうがいいんじゃないのか? というか、即刻、女性に変えろ」


「できるか! あのな、ロンは、花のことしか興味がないような男だ。アリスとも花のことばっかりしゃべってる。心配しなくても大丈夫だ」

と、マークが、あきれた目で俺を見た。


 が、あきれるのは俺のほうだ。

 花のことばかりしゃべっていれば、なぜ、大丈夫と言える?

 

 つまり、花の話題で、アリスと打ち解けているんだろう? 

 あの男は……。

 

 俺は、また、窓の外を見た。

 まだ、アリスと男はしゃべっている。

 

「あ、アリスが笑った。あの男にむかって笑ってる……」

 

 悲痛な声でつぶやく俺に、マークが軽く笑った。


「そりゃ、笑いもするだろう。特に、アリスは、すぐ笑うしな」


「いや、俺との茶会では笑わない。初対面の時、一番はじめの挨拶で、笑いかけてくれたのが最初で最後だ。その後、すぐに泣かせてしまって、それ以来、笑ってくれることはない」

と、俺が反論した。


「え? ああ、そうなのか……。そりゃ、なんというか……まあ、がんばれ。俺はルイスを応援してるからな」

と、マークが、ぐだぐだで励ましてくれた。


 が、そんな適当な励ましの言葉はいらない。

 それよりアリスの情報をくれ。


「アリスは、あの男と、あんなに楽しそうにしゃべって、笑いあうくらい、花が好きなのか?」

と、俺は庭の男をにらみつけながら、マークにたずねた。


「ああ。確かに、アリスは花が好きだ。よく庭にでて、花を見てるし」


「特に、なんの花が好きか知ってるか?」


 俺が聞くと、マークは首をかしげた。


「さあ、どうだろう? 俺って、花にまったく興味がないから、花の名前を聞いても覚えてないんだよな」


 信じられない。アリスの好みを覚えていないとは……。

 俺は少しムッとして、マークにつっかかった。


「石も花も似たようなものだろ? なのに、どうして、覚えてないんだ?」


 俺の言葉に、マークが目をむいた。


「はあ!? 全然違う。石は石であって、花ではない! 石のことを、ルイスは、もっと学べ! そして、知るんだ! そうだ、今から、石についての講義をしようか!?」

と、妙なテンションになってしまったマーク。


 ……放っておこう。

 それより、アリスのため、早急に習得すべきことが決まった。


 俺は花を育てる。

 アリスの好きな花をリサーチして、専用の花壇を作ろう。

 しかも、あの庭師の見習いの男よりも、ずーっときれいな花を咲かせてみせる。


 待っててくれ、アリス。

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