俺は出会った 13
今日は、マークに誘われて、公爵家の屋敷に初めてやって来た。
そう、つまりはアリスの住む屋敷だ。
マークに、アリスの好みの食材を探ってもらったお礼に、学園の課題を俺が教えることになったからだ。
マークは収集している石のコレクションも見せたいらしく、マークの部屋で教えてほしいと頼まれた。
出迎えてくれたマークが、俺を見るなり言った。
「期待しているところ悪いけど、アリスは今いないから」
「いや、そんなことは期待していない」
と、俺は即答した。
「隠さなくていいって! 顔は動いてないけど、さっきから、目がきょろきょろしてるし。アリスを探してるんだろう?」
そう言って、にやりと笑ったマーク。
「いや、本当に違う。むしろ逆だ。今日、アリスに会ったらまずいと思っただけだ」
「え? なんで、まずいんだ?」
「婚約した時に、月一回だけ、アリスとお茶会で会う約束だったからな。それ以外で会う場合、偶然会ったのなら不可抗力だ。だが、今回は、俺がアリスが住む屋敷を訪ねてきたわけだから、もし、アリスに会ったら、俺はそんな気がなかったとは言い訳できない」
「はあ、なんだそれ!? 別に会ったら会ったで、いいだろう? むしろ、話せる機会が増えていいんじゃないのか?」
「いや、ダメだ。ルール違反だ」
「ルール違反って……。本当に、ルイスは変に頑固というか、不器用というか……。まあ、いいや。俺の部屋に案内するから、ついてきて」
そう言って、廊下をズンズンと歩きはじめた。
一緒に歩いていると、突然、目にとびこんでくるものがあった。
思わず、立ち止まった俺に、マークが聞いてきた。
「一体、どうしたんだ? ルイス」
俺は、廊下の壁を指さした。
そこには、小さい花の絵が飾ってある。
「あの絵にものすごく惹かれる。もしかして、あれって、アリスがかいたのか?」
マークが驚いたように目を見開いた。
「ああ……。確かに、あれはアリスがかいた絵だけど……」
「やっぱりな」
「やっぱりって、なんでだ!? 他にも、沢山、廊下に絵がかけてあるのに、アリスの絵を見た瞬間、ピンポイントで反応するって、怖すぎるだろう!?」
「怖い? それこそ、何故だ? アリスが描いたんだぞ。わかって当然だ」
「いやいや、当然なわけないって! ルイスはアリスの絵を見たこともないのに!」
興奮した顔で、騒ぐマーク。
だが、そんなことはどうでもいい。
それより、アリスは絵の天才だったんだな。
この前、プレゼントに俺の描いた絵なんかを渡さなくてよかった。
というか、この絵が欲しい……。
「なあ、この絵を売ってくれないか?」
「はああ!? いやいや、おかしいだろ? 素人の絵だぞ」
「俺にとったら、最高に素晴らしい絵だ」
マークは、大きなため息をついた。
「あのな、ルイス。冷静になれ。アリスフィルターがかかって、なんでも良く見えるらしいが、アリスの絵の腕前は……まあ見ての通り、あまり上手くはない。というか、はっきり言って下手だ。それに、どっちにしても、この絵は、アリスが父にプレゼントした絵だ。父は大喜びして、こんな目立つところに飾っている。仮に、いくら積まれたところで、もちろん、手放すことなど絶対にない。……ほら、見とれてないで、行くぞ」
と、マークに促されて、しぶしぶ俺は歩き出した。
アリスと結婚したら、俺にも絵を描いてもらおう。
そして、屋敷中に飾るんだ。
俺に新たな夢ができた。
そんなことを考えていると、マークの部屋についた。
想像した通り、石だらけだった。
しかも、部屋中、いたるところに石がおいてあって、まるで野外のような雰囲気だ。
「俺が長年、こつこつと集めてきた自慢の石たちだ。どうだ?」
マークが目を輝かせて聞いてきた。
「すごいな。(量が……)」
と、答えてみた。
「だろう? ……そうだ、せっかくルイスが訪ねてきたんだ。記念に、ひとつ連れて帰るか?」
「いや、遠慮する」
と、即答した俺。
正直、石には微塵も興味がない。
「そうか? ルイスには、この石がちょうどいいと思ったんだが……」
そう言って、そこらへんに転がっているような灰色の石を俺に見せてきた。
「この石はな、河原で、アリスの誕生日にあげた石の隣にあった石なんだ。対になってるように思えたから、一緒に連れて帰ってきた。なんか、夫婦みたい雰囲気をだしている石だから、ルイスにあげようと思ったけど、いらないなら、まあいいか」
「もらう! いただく! くれ!」
俺は連呼した。
「すごい変わりようだな。まあ、大事にしろ」
と言って、俺に石を手渡してきたマーク。
アリスの持っている石と夫婦のような石だと思うと、そこらへんに転がっている石が、ものすごく特別な石に見えてきた。
「わかった。上質な生地でできた敷物に置いて、大切に飾っておこう」
「いや、それではダメだ。石を大事にするっていうのは、そうじゃない。石を触ったり、眺めたり、話しかけたりして、愛でてくれ。そうすれば、石も喜ぶ」
「……そうなのか? わかった。努力しよう。……それと、この石について、もうひとつ聞きたいんだが……」
「お! ついに、ルイスも石の魅力がわかってきたんだな。なんでも聞いてくれ!」
と、嬉しそうなマーク。
「マークが言ったように、この石を大事にしていたら、石の効果で、俺はアリスと仲良くなれるんだろうか……?」
俺の質問に、あからさまにがっかりした顔をしたマーク。
「あのな、ルイス。そんなことは、自分でなんとかしろ。石に頼るな!」
「つまり、この石を大事にしても願い事が叶うとかはないのか……?」
「いや、心から大事にしていたら、もしかしたら、応援してくれるかもしれない。が、それは石の気持ち次第だ。とにかく、下心があって大事にされても石は嬉しくない。だから、しっかり愛でてやってくれ」
と、滅多に見ないほど真剣な顔で語ったマーク。
石に関してだけは驚くほど繊細だな、マークは。
他のことは大雑把なのに、不思議な奴だ……。
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