俺は出会った 12
今日はアリスとのお茶会だった。
1か月、あんなに待ちかねたのに、今回も、はじまったら、あっという間に終わってしまった……。
でも、俺が作った新作のレモンケーキ。口にいれたとたん、アリスの顔がゆるんだのを俺は見た。
気に入ってくれたんだと思う。それだけで俺は大満足だ。
今回も、ほとんど、しゃべることはできなかったけれど、お菓子を食べるかわいい姿を堪能できた。
全身全霊でのぞんだお茶会の後、アリスと会った余韻で、ふらふらしながら廊下を歩いていると、突然、横の部屋から、何かが飛び出してきた。
「見たぞー!」
げっ……。母上だ。
「なあ、ルイス。話がある。ちょっと、お茶をしないか?」
「今、したところだ。いらない」
「あいかわらず、そっけない奴だな。久しぶりのお母さまとの再会だぞ。お茶ぐらい何杯でもつきあえ!」
と言うやいなや、ぐいっと、襟首をもたれ、部屋に連れて行かれた。
本当に、昔から、すごい馬鹿力だ……。
部屋に入ると椅子に座らされ、テーブルをはさんで、目の前に、母上が座った。
が、テーブルをのりこえる勢いで、身をのりだしてきていて、圧がすごい。
アリスとのお茶会の後に母上に会いたくなかった。
アリスとの余韻にひたっていたいのに、圧がすごすぎて、余韻が消えてしまうじゃないか!
ため息をついたあと、「それで、なんの用?」と聞いてみた。
俺の言葉に、母上が、不敵な笑みをうかべた。
この顔……。絶対に、ろくなことを考えていない。
「いいことを思いついた。ルイスを辺境伯の後継者にすることにした。喜べ、ルイス!」
「断る」
俺は即答した。
「なんでだ?」
母上が、更に前のめりになって聞いてくる。
近い! 離れろ!
「あんなところに、行きたくないから」
「何故だ? いいところだぞ。自然だらけだし」
「あんな寒いところに、アリスをつれていけないからだ」
そこで、母上が、にやりとした。
ぞわっとする。なんなんだ!?
「今日、ルイスとアリスの茶会を見たぞ! アリスは、かわいいな。私は気に入った」
まあ、アリスがかわいいことは間違いのない事実だが……。
「ということで、アリスには、辺境伯婦人となってもらう。あんな小動物、……いや、辺境伯婦人がいたら、癒されるだろ? もし、ルイスが辺境伯になりたくないのなら、アリスだけでもいい。アリスに似合う、辺境伯候補を見つけるから。心置きなく、婚約を解消してくれ」
「はあああ!? するわけないだろう? ふざけるな!」
俺は声を荒げた。
が、母上は真顔で、俺の顔を見ていたかと思ったら、ハハハと豪快に笑った。
「ルイスは、怒っても無表情なんだな! おもしろい! その動かない表情筋、辺境伯にむいてるぞ。隣国との交渉の際、その無表情なら、心を読まれることもない。使える!」
「だから、断る。あんな寒い土地、アリスが凍ってしまうだろう?」
「大丈夫だ。私は幼い頃から、森の中で小動物を沢山みてきた。徐々に寒さになれるよう、私が鍛えていく」
と、胸をはった。
話が、どんどんおかしくなってきた。
「あのな、アリスは小動物じゃない。妖精だ!」
そう言ったとたん、母上がふきだした。
「妖精だと!? ルイスもまだまだ子どもだな。アリスは、間違いなく小動物だ。頬をふくらませ、菓子をほおばっている姿。見たか? 一生懸命食べている姿の、いじらしいこと。なんて、かわいらしい生きものなんだ!
ということで、絶対、嫁にもらう。相手はルイスでなくてもいい。
あ、そうだ。あの、ルイスと名前の似た……あ、ウルス。あれでもいいんじゃないか? 今から鍛えれば、辺境伯としてやれるだろう。長年、あの、ややこしいフィリップに仕えているぐらいだから、見込みがある」
ウルスだと!? 冗談でも、アリスの相手として他の男の名前をあげるなんて、許せない!
俺は、母上をにらみつけた。
「あ、それくらいの殺気、なんともないから、出しても無駄だ」
と、軽くあしらわれた。
くそっ……。
「ルイスもまだまだな。茶会の様子を見たが、アリスとの距離も、はるか遠そうだったし。どうだ、辺境伯をついでくれたら、この頼りになるお母さまが、アリスの心をつかめるよう、全面的に後押しするが? どうする?」
と、母上は鋭い目で、俺を見据えた。
どう見ても、母親が子どもを心配している目ではない。
幾多の戦いをくぐってきた騎士が、交渉しようとしている目だ。
だれが、のるか!
「結構だ。自分でなんとかする」
「そうか、わかった。だが、うかうかしていると、アリスをさっさと辺境につれていくからな。まあ、せいぜい頑張れ!」
そう言うと、にやりと笑った母上。
アリスも、面倒な人に目をつけられたな。でも、大丈夫。俺がアリスを守るから。
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