挿話 久しぶり
背は高く、すらりとした体に、きっちりと着こんだ騎士服。
輝くような金髪を、後ろで一つにまとめ、颯爽と王宮の廊下を歩く、凛とした美しい女性。
出会った人たちは、さっと、廊下の端によけ、頭をさげる。
この女性こそ、久しぶりに城に帰還した王妃だった。
この王宮へ帰って来たのは、久しぶりだな。
懐かしく思いながら、ブーツをならして歩いていると、向こうから、息子であり王太子のフィリップと側近のウルスが歩いてくるのが見えた。
さっと手をあげ、「久しぶり!」と、声をかけた。
「げっ」
と、小声で言ったフィリップ。
私は耳がいい。
というのも、幼い頃から、森の中を駆け巡り、遠くの小さな物音まで聞きとるよう独自で訓練をしていたからかもしれない。
だから、距離があっても、かなり小さい声でも聞き取ることには自信がある。
私はフィリップに言った。
「げっ、とはなんだ?」
「あいかわらず、地獄耳なんだから」
などと、フィリップがウルスに小声でこぼしている。
が、それもしっかり聞こえているからな!
「それが、久しぶりに会ったお母様への態度なのか? フィリップ!」
すかさず、側近のウルスが頭をさげた。
が、フィリップは、うさんくさい笑みを浮かべて言った。
「お久しぶりです、母上。今日はどういったご用件で?」
「仕事だ。ちょっと気になることがあってな」
そう言うと、フィリップの顔つきが変わった。
目の奥が鋭くなる。へえ、いい目をするようになったな……。
そう、フィリップは王太子としては優秀で、仕事はできる。
ただ、ひとつ、残念すぎることがあるから、差し引きゼロか……。
すると、向こうから、今度は王がやってきた。
そして、私を見て、
「げっ」
と、つぶやいた。
本当に親子そろって失礼だな。
それから、はっとしたように、私のほうへ、小走りでやってくる。
王としての威厳が感じられない……。
「ミラベル、急にどうした? 何か、あったのか!?」
王が、あわてたように聞いてきた。
「気になることがあって、王都に確認にきた。ちょっと、話せるか?」
「もちろんだ! では、私の執務室で話そう」
あわてふためく王について、歩いていった。
後ろから、フィリップとウルスもついてきている。
「それで、何があった? ミラベル」
と、王が聞いてきた。
「私の領地に、違法な薬がでまわりだした。かなり危ない薬だ。国境の検問は厳しくし、警戒を強めている。王都のほうはどうなのか、情報を得ようと思ってやってきた。王都の騎士団長とも話がしたい」
「わかった。すぐに呼んで話を聞こう」
王はそう言ってから、ふと、心配そうな顔をした。
「ミラベル。……あまり危ないことをしてくれるな。もう、そろそろ、辺境伯の仕事は誰かに任せて、王宮へ戻ってこないか」
と、王が言った。
そう、私は王妃であるが、辺境伯でもある。
辺境伯の一人娘だった私は、ゆくゆく辺境伯をつぎ、辺境騎士団を率いるため、小さい頃から体を鍛え、騎士団に入団して訓練していた。
が、ある日、そんな私の計画が狂うできごとがおきた。
視察にきた王が暴漢に襲われたのだ。刺される寸前に、私がかばった。
少し怪我はしたが、騎士としては当然のこと。守れたことに安堵した。
幸い、王は無傷で無事だった。
だが、思いもかけないことに、王はそんな私に求婚してきた。
惚れてしまったんだそう。
危険な状況に陥った時、そういう気持ちになるのはよくあることで、本当の愛ではないと何かで読んだ情報をそのまま王に伝えた。もちろん、求婚も断った。
が、断っても、断っても、あきらめず求婚してくる王に、結局、絆されてしまった。
そして、辺境伯と兼任OKという、前代未聞の条件で、王妃になった。
まだ、子どもたちが幼い時は、8割方、王宮にいて、辺境には通っていたが、今は逆。
辺境に8割いて、こちらに2割帰ってくるくらいだ。
外せない王妃としての仕事がある時に帰ってくることが多い。
辺境伯の仕事は国防を担っている。信頼できる後継者が決まるまでは、私がなんとしてでも頑張らねば。
ということで、王宮へ戻るのは、まだまだだ。
王の執務室からでて、王太子のフィリップとともに騎士団の方へ向かっていると、庭にルイスがいるのが見えた。
「……あれは、何をしているんだ?」
フィリップにたずねる。
「婚約者のアリス嬢との月一回のお茶会です。邪魔したら、殺されますよ」
と、フィリップ。
ああ、あのルイスが執着しているという婚約者のアリス嬢か。どれどれ。
「ちょっと、ここで観察していこう。おもしろそうじゃないか!」
「……面倒なので、ばれないようにお願いします」
と、ウルスが言った。
「まかせとけ! 隠密行動は得意だ」
と、胸をはる。
フィリップが、あきれたように私を見た。
沢山の花々に囲まれたテーブルに山ほどの菓子が並んでいる。
そして、小さな少女と、向かい合ってすわる、無表情のルイス。
ルイスが浮いている感じが、シュールだな……。
そして、あの二人は、お茶会なのに無言なのか?
口元を見ても、話しているようには見えない。
やっと、ルイスが菓子を指差し、何かを言った。
すると、その小さな女の子が、その菓子をとり、食べ始める。
「なんだ、あの生きものは!?」
「どうしました、母上?」
「ほら、あの一生懸命、菓子を食べている姿。どうみても、小動物だろ。私は、小動物に弱いんだ。……かわいいな」
もはや、私の目は、小さな女の子に釘付けだ。
フィリップがあきれはてた目で見ているが、関係ない。
「そうか、あの女の子がアリス嬢か。いいなあ。かわいいな。娘にほしいな……。
そうだ、ルイスに辺境伯になってもらおう! ルイスなら剣の腕もたつ。なにより、嫁として、あんなかわいい小動物が辺境にきてくれたら、癒されるだろう」
「ルイスは辺境伯にはさせません。あんな寒い土地に行かせられません!」
すかさず、反対したフィリップ。
「フィリップは、ほんと、ルイス離れができないな。何故だ?」
「かわいいからに決まってます。そんなことを聞くほうが、何故? ですよ。それに、まだまだ、ルイス離れなどするつもりは毛頭ありません」
と、真顔で言いきったフィリップ。
我が息子ながら怖いな……。
そう、ルイスが関わると、フィリップの言動がおかしくなる。
この残念すぎる点は全く改善されない。
まあ、いい。今は、ルイスとアリスだ。
早速、二人を辺境の地へ呼び寄せる計画をたてないとな!
※ リアリティのない王室、王族を書いておりますが、気軽に読んでいただけたら、幸いです💦
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