ぼくが守る 4

 あれから数日。ルイスの真意を探っているが、全くわからない。

 さすがルイスだ! 優秀すぎる。

 

「それで、ルイスのこと、何かわかった?」

と、ウルスの顔を見るたび、確認する僕。


 ウルスがあきれたようにため息をついた。


「あのな……。ルイス本人に、もう関わるなって言われただろ? 王太子の優先するべきことは、今、そのテーブルに山積みとなってる書類の処理だ! 早くしろ!」

と、どなった。


「わかってないよね、ウルスは。口では、関わるなと言いながらも、すがってくるような、あの目! 間違いない。奥ゆかしいルイスは、兄様に助けを求めてる!」


「はっ、わかってないのは、どっちだよ。どう見ても、心底、激怒してたろ? 何故、ルイスの時だけ、その優秀な観察眼におかしなフィルターがかかるんだ?」


「おかしいどころか、ルイスを見る時はいつも以上に研ぎ澄まされてるけど? まあ、ウルスにはわからないか……」

と、ぼやいた瞬間、騒がしい足音がした。 


「大変です! 王太子様!」


 開いたままの扉から入って来たのは、僕の側近になったばかりのミカエルだ。


「おい、ミカエル! 今朝から見えないと思ったが、仕事を放り出して、どこへ行っていた!?」

と、先輩の側近ウルスの額に青筋がたっている。


「え? 聞いてなかったんですか? 王太子様から、ルイス様の動向を探るよう命じられ、学園に潜入していました!」


「あ!? なに、勝手に命じてんだ、フィリップ!?」


 ウルスが部下の前で、僕を名前で呼ぶ時は、相当怒ってる時だ。

 が、僕も引くわけにはいかない。


「ルイスの確認をするのは最優先事項だ」


「そんなわけあるか! 王太子の仕事を優先しろ!」


「……王太子様、そんなことより大変なんです!」

と、ミカエルが叫ぶように言った。


 そうだ、ウルスと言い合ってる場合じゃない。


「どうした? ルイスに何かあったのか?」


「アリス嬢に婚約解消を告げたそうです。あのピンクの髪の女性を連れて」


「は……、婚約解消!? どういうことだ……? アリス嬢のことが嫌になったかと僕が聞いた時、まわりが凍り付きそうなほど怒ったのに?」

と、ウルスの方を見た。


「確かに。そうだったな……」


「よしっ、あのピンクの髪の女に聞きに行こう。ルイスには、アリス嬢には近づくなと言われたけど、そっちは言われてないもんね」


「おいっ、だから、仕事が山積みなんだがっ!?」


「ルイスのことを心配しながら仕事をしたら、書類に適当にサインしてしまうけど。それでもいい?」


 僕の言葉に、ウルスの眉間のしわがこれ以上ないほど深くなる。


「……なら、ルイスの件、さっさと片づけるぞ。……覚えてろ、フィリップ。後で、寝ずに仕事させてやるからな」


「わかった! じゃあ、僕は行くよ!」



 ということで、あの女が養女になっている男爵家の前に到着した。

 ミカエルが調べた報告によると、僕が、学園でルイスと会った翌日には、ルイスはアリス嬢に婚約解消を告げたそうだ。


 そして、それから、あのピンクの髪の女は学園には来ていないという。


 馬車の中から、男爵家を確認する。目立たないよう、王家の紋章の入ってない馬車を調達してきた。


「話が聞きたいんだろう? アポイントをとらなくて、良かったのか?」

と、ウルス。


「ああ。警戒されて逃げられでもしたら面倒だしね。それより、ウルスは帰って仕事してくれててもいいよ。仕事が山積みでしょ?」


「ああ、山積みだ。しかし、暴走するフィリップを止められるのは、俺しかいないだろ?」

と、切れ気味で答えられた。


 冷静沈着な僕は、一度も暴走したことはないけどね……。


「それで、あの女に会って、何を聞くんだ?」


「もちろん、ルイスとの関係。ルイスには、あの女が見えてもないくらい、興味がなさそうだった。なのに、翌日に、その女を連れて婚約解消? しかも、あの執着しているアリス嬢と。おかしすぎる」


「まあな」


「もしや、あの女は浮遊霊かもしれない。ルイスにつきまとい、操り、ルイスの意思とは違う行動をさせている。でも、ルイスには見えない」


「浮遊霊……? ほんと、何言ってんだ? 俺たちにばっちり見えて、噂にもなってる。あの女は、正真正銘の人間だ!」


「そう? まあ、生きてても、死んでてもどっちでもいい。ルイスから離れてもらうのみ。ということで、女の興味をルイスからぼくに移す。色仕掛け作戦を決行する!」


「……」


「どうした、ウルス? 黙りこんで」


 ウルスが、またもや、はあーっと大きなため息をついた。


「仮にも王太子が何を考えてんだと思ったら、泣けてきた」


「古今東西、昔からある古典的な作戦をあなどるなかれ、だ!」


 ウルスが、もう一度、ため息をついた。


「まず、色仕掛けなんて、おまえにできるのか? それと、……言いづらいが、色々な面で、ルイスよりおまえを選ぶとは思えないんだが……」


「失礼だな。僕はルイスの兄様だ。似た魅力があるはずだろ!?」


「……あったらいいな」

と、ウルスがつぶやいた時だった。


 窓の外に、ピンク色の髪が目に飛び込んできた。


「あの女じゃない?」


 ウルスも、あわてて窓から外を見た。


「あの髪色はそうだな……。ちょうど、屋敷からでてきたみたいだ。どうする?」


 女は大きな荷物を持って、どこかへ歩いていく。


「ちょうどいい。早速、作戦開始だ!」


 僕の言葉に、ウルスが、またもや大きなため息をついた。


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