ぼくが守る 3

 報告書によると、ルイスは人目につく学園でだけ、その女を連れているらしい。

 やっぱり、信じられない。

 これは、自分の目で確認せねば!


 ということで、お忍びで、ルイスの通う校舎にやってきた。

 ウルスはあきれているが、目立たないよう完璧な変装もしている。


 なのに、

「恥ずかしすぎて直視できない。離れてくれ」

と、ウルスが嫌そうに言う。


「ダメに決まってる。ルイスにばれないように、カップル設定にしたんだから。ウルスが隣にいてくれないと」


 ウルスは大きなため息をついた。


「あのな。仮にも王太子だぞ。なぜ、女装までするんだ?」


「ルイスを観察するのに、ルイスにばれたら意味がないからね。兄様大好きのルイスだ。生半可な変装では、すぐに見抜かれるに決まってる。だから、女子学生のふりをした。いいアイデアでしょ」


 貴族令嬢の衣装を着て、長い巻き髪のウイッグをかぶり、メイドに入念にメイクをしてもらい、準備に3時間かかった。

 これなら、ルイスにもわからないだろう。


 そして、老け顔のウルスには、若く見える服を着せ、前髪をおろさせた。


「じゃあ、ウルス。ここから、腕を組むわよ」

と、変装にあった言葉に変える。


「げっ、やめろ! フィリップ!」

と、ウルスが飛び逃げた。


「ちょっと、フィリップじゃなくて、リリって設定だって言ったでしょう?」


「何が、リリだ。どうみても、フィリップだろう!」

と、嫌がるウルスの腕をひっつかまえて、歩きだしたとん、見慣れた姿が目に飛び込んできた。


「あっ、ルイスがいた!」


「どこだ? 見えないけど……」

と、ウルス。 


「あんなに輝いてるのに見えないって、ウルス、目が悪いんじゃない? ほら、今、校舎に入っていくところ。行くわよ!」


「は? 校舎の入り口って……。あんなに遠いのに、見えるほうが怖いだろう? あいかわらず、ルイスに関しては怖い奴だな……」

と、ウルスが身震いしている。


 が、かまわず、ぼくはウルスの腕をつかみ、小走りでルイスを追いかけた。

 校舎に入ったルイスに追いつくと、そばに、ピンク色の髪の女がいた。


「あの女?」


「ああ」


 ルイスは、女の方を見てもいない。が、女はルイスに向かって、一方的にうるさく話しかけている。

 まわりの学生たちは、二人を遠巻きに見ているようだ。


 嫌がるウルスをひっぱって、近づいていく。


 女の甲高い声が聞こえてきた。


「ルイス殿下~。私のこの新しい服、似合ってますかあ?」

「ルイス殿下~。今日こそ、一緒にランチを食べましょうよう」

「ルイス殿下~。今度、王宮へ遊びに行ってもいいですかあ?」


 ぼくは、ウルスに確認した。


「ルイスには、あの女の存在が見えていないんじゃない?」


 ウルスも戸惑ったように言った。


「確かに変だな。ルイスが変な女を連れていると噂になっているが、あれでは連れているというより、女が勝手にまとわりついてるだけだよな。でも、なぜ、追い払わないんだ? ルイスなら、あんなタイプの女が来たら、氷のような目でにらんで、すぐに追い払うだろ」


 もしや、弱みでも握られているのか、ルイス?


 思わず、前のめりになった時、ルイスがこっちを向いた。目があった。


「うわあ、大きな女の人~」

と、女が言った。


「思ったまま口に出すとは、礼儀がなってないよね」


 ウルスに小声で文句を言う。


「そんな怪しすぎる恰好で、礼儀云々を言われてもな」

と、すぐさま、言い返された。


 とにかく、ルイスが、あんな礼儀知らずの女がいいだなんて言ったら、全力で阻止しないと!


 あ、ルイスが目を見開いてる。

 もう、ばれちゃったか。

 さすが、兄様大好きルイスだよね。こんな完璧な変装でも見抜くとは!

 愛の深さに感動してしまう。


「おい、逃げるぞ。あのルイスの顔はまずい。相当きれてるわ」


 ウルスがそう言うと、今度は俺の腕をつかみ、ひっぱって帰ろうとした。

 が、それより先に、ルイスがすごいスピードで寄ってきて、ぼくの腕をつかみ、外へと引っ張っていった。


「兄上、何してるんだ?」


「やっぱり、ばれた? すごいね、ルイス。どんな格好をしてても、兄様のことがわかるんだね!」

 

 僕の言葉に、ルイスが眉間に深いしわを寄せて、ウルスを見た。


「おい、ウルス。説明しろ」

と、冷たい声で聞いている。


「はいはい、すみませんね。俺も止めたんだよ? でも、自分の目で、ルイスが変な女を連れてるのを確認するんだって言って、聞かなくて」


 ルイスは、ぼくに向き直った。


「兄上は、この件に絶対に関わるな」

と、強い口調で言った。


「そうはいかない。ルイス、困ってるんじゃないの? もしや、あの女に弱みでもにぎられてる? それか騙されてる? 兄様に言ってごらん」


「俺が騙されたり、弱みを握られたりするわけがないだろ」


「じゃあ、アリス嬢が嫌になったとか?」


 そう言った瞬間、そこらへん一帯が凍りついた。


「もう一度言ってみろ。その口、縫いつけてやる。いいか、絶対アリスに近づくな」


 ルイスは、冷たい声でそう言うと、すごい勢いで校舎の方へ戻っていった。


「ルイスは反抗期かな?」


「そんなわけないだろ? どう見ても、激怒してただけだ。まあ、無理もないよな。こんな兄だもんな……」

と、ウルスが憐れんだ目で僕を見た。


「まあ、でも、ルイスが騙されたり、弱みをにぎられてた訳じゃないとわかって良かった。なにより、ルイスと久々に話せたし! 変装した甲斐があったね」


「ほんと、ルイスに関しては、的外れなポジティブ思考だな?」

と、ウルスが大きなため息をついた。


 とにかく、ルイスは何か思惑があって、動いてるということだ。

 遠慮深いルイスだから、兄様に言いにくいのだろう。


 よし! 

 それなら、こっちで勝手に理由を探って、ルイスの望みを叶える手助けをしよう! 

 兄様に任せなさい!

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