我が息子ルイス 2

 子どもの時以来、2度目の私へのルイスの頼み事が、またもやアリス嬢にまつわることだとは……。


 しかし、今回は、さすがに認められない。

 王子を辞めさせることはできないと言ったが、ルイスは諦めなかった。 

 何度も何度もやってくる。


「王子を辞めるよりも、アリス嬢に、何故、王子妃になるのが嫌なのか聞いて、話し合ったほうが良いのではないか? 不安があれば、それを取り除くよう、こちらで対処できることもあるだろうし」

と、私は、あたりまえの提案をした。


 が、ルイスは考えることなく即答。


「嫌です。アリスに無理をさせたくない」


 私は、もう、今日だけで何度目かのため息をついた。

 普段のルイスは、非常に冷静で理にかなった行動をとる。


 だが、アリス嬢のこととなると、一気に予測不能な行動をとり始め、しかも頑固だ。

 何をおいても、アリス嬢、アリス嬢……。

 アリス嬢しか興味がないんだろう。


 が、こちらも「王子を辞める」など、この国では前代未聞の出来事を認めるわけにはいかない。

 

 それから、しばらくして、耳を疑う報告があがってきた。

 なんと、ルイスが、そのアリス嬢と婚約を解消して、別の女性を連れているという報告だ。

 しかも、その女性の評判が悪く、ルイスの評判もがた落ちだそうだ。


 なんだ、その話は? あり得ないだろう! いや、絶対にない!


 幼い頃からの、ルイスのアリス嬢への執着を見せられてきた私としては、神に誓って断言できる。


 つまり、ルイスが何か企んでいるということか。

 面倒なことになったな……。


 私は大きなため息をつくと、ルイスを呼び出すよう指示をだした。


 呼び出しを待っていたのか、すぐに、やってきたルイス。


「アリス嬢との婚約を解消したと聞いたが、何をしている?」

と、私はルイスに聞いた。


「王子を辞めさせてくれないのなら、あの女性を王子妃にします」


 はあー。ため息がとまらない。

 こいつは、一体、何を言っているのだ!? 

 脅しているつもりかもしれないが、そんなことになったら、誰より傷つくのは、おまえ自身じゃないか……。


「ルイス。それでも王子を辞めるな、と私が命じれば、おまえは、大切なアリス嬢と一緒になれないんだぞ。もちろん、アリス嬢は他の誰かと結婚するだろう。それでいいのか、おまえは?」


 ルイスの瞳が大きく揺れた。

 表情は変わらないものの、よくよく観察すると、絶望しているようにも思える。

 

 想像するだけで絶望するような案をよく実行しようとするな? 

 天才といわれているが、アリス嬢がかかわると、ただのバカだな。


 こいつにとって、優先することはアリス嬢だけ。

 王子の立場など比べるまでもなく、自分でさえも、どうでもいいということなんだろう。


 はあーっと、また、ため息がでた。


 本当なら、王として、王子をやめるなど断固として認めてはいけないのだろうが……。

 私にとって、ルイスはかわいい息子だ。

 無表情だろうが、かわいい。仕方がない……。


 しかし、婚約解消に利用された令嬢、よく、この今のルイスに近づいたな。

 怖いもの知らずというか……。


 恋する男の目とは程遠い、なんと言うか、刺し違えるような目つきなのにな。

 目的のためとはいえ、アリス嬢と婚約を解消したのが相当なダメージなんだろう。

 無表情なだけに、更に恐ろしく見える。


 幸い、王太子であるルイスの兄フィリップは、仕事に関してだけは優秀だから、まあ、大丈夫だろう。

 はああ、……私も甘いな。


「わかった、ルイス。そのかわり、ロバートソン公爵家に入り、後を継ぐことが条件だ」


 ロバートソン公爵家は、王妃の親戚筋の由緒ある公爵家だ。

 跡継ぎがおらず、遠縁のものたちが養子にしてくれとやってくるが、認められない者ばかりだと、高齢のロバートソン公爵が公爵家の返上を申し出ていた。


 が、領地が重要な場所なだけに、頭を悩ませていたところだった。


 ルイスには公爵として、王太子を支えてもらうとするか。


 が、私ができるのはここまでだ。

 王子を辞めたとて、アリス嬢の気持ちをつかめなければ意味がない。

 

 無表情で不器用な息子よ。

 どうか幸せになってくれ。



※ 父視点はこれで終わりです。

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