ぼくが守る 1
※ ルイスの兄、王太子視点です。
今日も、王太子の仕事は山積みだ。
ひと段落ついたところで、この国の王である父上に報告に行く。
あれは、ルイス?
すごい勢いで、王の部屋から立ち去っていく後ろ姿。
「ルイス!」
声をかけたけれど、ルイスは猛スピードで遠ざかっていった。
あの後ろ姿、ただごとじゃない。
僕は、あわてて王の執務室へ入った。
「父上! ルイスはどうしたのですか? あの後ろ姿、何かあったのでは?」
僕の顔を見た瞬間、父は、はーっと大きなため息をついた。
「面倒な奴がまた来た……。なんで、後ろ姿を見ただけで、ただごとではないとわかるんだ?」
と、あきれたような声をだした。
「そりゃあ、小さい頃から、ルイスを観察してきたから、わかりますよ! ほら、何があったんですか?」
前のめりで聞く。
「王子を辞めたいそうだ」
「では、僕も辞めます」
「おい! ふざけるな。おまえ、王太子だろ」
「いえ、王太子の前に、ルイスの兄ですから!」
そう、僕には、6歳年下のルイスという、かわいいかわいい弟がいる。
無表情などと言われているが、そんなことはない。
あの表情を見てわからないなんて、感受性が乏しいだけだ。
幼い頃、ルイスの誕生日プレゼントにライオンのぬいぐるみをあげた僕。
「にいさま、ありがと」
そう言って、目が笑ったのを見て、僕は心臓をうちぬかれた。
ルイスは兄様が守る! 僕は、その時、強く心に誓った。
それから、城で人形王子など陰口を言うものがいれば、すぐさま駆けつけ、ルイスの良いところを、懇切丁寧に言い聞かせた。
ルイスのいいところなど、ありすぎて言いきれないくらいあるからね。
が、不思議と、皆、話の途中で、
「申し訳ありません。もう言いませんので、どうぞおやめください」
などと言い出す始末。
ルイスのいいところを教えてあげているのに、途中でやめてくれとは信じられない。
もっと聞かせてください、だろ?
と、幼い頃の、かわいいルイスのことを思い出して、少しにやついていると、父があきれた目をぼくに向けてきた。
「王太子としての仕事は、立派にこなしてるのに、何故、ルイスのことになると、そうなるんだ? アリス嬢に関わった時のルイスと同じ怖さを感じるぞ。はあー、うちの息子たちは、なんで、そんなとこが似てるんだ?」
「ということは、ルイスが王子を辞めたいと言い出したのは、アリス嬢が関係しているのですか?」
一瞬ためらった父上が、渋々といった感じでうなずいた。
「王子妃になりたくないそうだ」
はああ!? ルイスの何が不満なんだ!?
「父上、婚約破棄しましょう! ルイスの魅力に気づかない令嬢に、ルイスは任せられません!」
父は思いっきり眉間にしわを寄せた。
「おまえは、この件に口をはさむな! 余計にややこしくなる。娘を溺愛している宰相のジュリアンに、今の言葉を聞かれてみろ。あいつが本気で怒ったら、王族が滅ぼされるぞ!」
「立ち向かいます! 僕がルイスを守りますから。小さい頃、誕生日にぬいぐるみを……」
「やめろ! その、心臓をうちぬかれた話は、頼むからやめてくれ。何万回聞かされたと思っている……。そして、王太子。いや、フィリップ。もう、ルイスはおまえに守られるような年ではない。とっとと、弟離れしろ!」
ふん、父上は何もわかってない。
いくつになろうと、僕はルイスの兄様だ。僕がルイスを守る!
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