番外編 

我が息子ルイス 1

※ ルイスの父視点、2回で終わります。



「父上、王子をやめさせてください」


 話があると言ってやってきたルイスの衝撃の一言がこれだ。


 は!? 王子をやめる? 

 ああ、そうか。これは、もしや、ルイス流の冗談なのか? 


 顔をじっくり見た。

 が、我が息子ながら、真意はつかめない。

 そう、ルイスは幼い頃より、極めて無表情だからだ。


「ルイスでも、冗談を言うんだな。ハハハ」

と、私は笑った。


 が、ぴくりとも動かぬ無表情でルイスは言った。


「冗談ではありません。王子を辞めさせてください」


「本気で言ってるのか? いきなり、どうした? 何かあったのか!?」


「アリスが王子妃になるのが嫌だと言ったからです」


 聞いた瞬間、私は大きなため息をついた。


 ルイスが、婚約者であるアリス嬢の名前を出したということは、その意思は固い。

 はあ、面倒なことになった……。


 我が息子、第二王子のルイスは、幼い頃より、何をやらしても優秀だった。

 が、なんでもできる故か、何も興味がないように見えた。


 家庭教師たちは、こぞって天才だと騒ぎ立てたが、当の本人は冷めた目で、そんな大人たちを見ていた。


 その上、ぬきんでた美貌。

 しかし、その顔はいつも表情がなかった。

 あまりに表情がないので、陰で人形王子と呼ばれていたらしい。


 そんな、ルイスが12歳のころ。

 すごい勢いで私のもとにやってきたことがあった。


 走ってきたのか、汗をいっぱいかいている。

 頬は紅潮し、無表情ながらも、ただごとではない感じが伝わってきた。


「どうした、ルイス? 何かあったのか!?」


 すると、ルイスは強く真剣なまなざしで、私を見た。


「アリスと婚約させてください!」

と、大きな声で言ったのだ。


 ルイスがこんなに大きな声をだしたのも、私に頼みごとをしたのも、この時が初めてだった。


「アリスとは誰だ?」


「公爵令嬢です。今日、会いました」


 ああ、ヴァルド家の令嬢か。

 家柄も申し分なく、なにより、信用のおける宰相であり、友人でもあるジュリアンの娘だからな。

 婚約者候補の筆頭として、会わせてくれるよう、頼んでいたんだった。


「ということは、二人は仲良くなったんだな?」


 すると、ルイスは黙った。

 と思ったら、大きな目から、大粒の涙がぽろぽろこぼれだした。


 え……! 泣いてるのか? ルイスが!?


「いきなり、どうした、ルイス?」


 顔は無表情のまま、大粒の涙をながすルイス。


「アリスを泣かせました」


 仲良くなったのではないのか?


「何をして、泣かせた?」


「ちびだな、って言いました。ちびで、かわいかったから」


「ちびはダメだな。失礼だろ。つまり、ルイスは、小さくてかわいいと思ったのか?」


 ルイスはうなずいた。


「だったら、今度会った時、思ったとおり言えばいい。小さくてかわいいとな」


 また、ルイスは、大きくうなずいた。


 よくよく見ると、無表情ながら、いつもとは違う。

 わずかに、落ち込んでいるように見える。

 無表情が少し動いたのか!?


 よし、私に任せろ、ルイス! 

 おまえの初めての頼みだ。この父が叶えてみせよう!


 とういうことで、私はがんばった。


 すぐに、アリス嬢の父、ジュリアンと話をした。

 が、娘を溺愛するジュリアンは怒り心頭。

 もともと、娘を王子の婚約者にするのも乗り気ではなかったのに、ルイスが大泣きさせたからだ。


 が、私もルイスに初めて頼まれたのだ。ここはひけない!

 その後は、ジュリアンに何度も頼み込んで、最後は手段を選ばず、王命を使って、なんとか婚約をとりつけた。

 また泣かせた時は、即刻、婚約を解消することを条件につけられたが……。


 そして、それを報告した時、ルイスは、ほんのわずか微笑んだように見えた。

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