第28話 あんなことやこんなことも?


 家の前に押し寄せて来たノームの集団。

 なにかを訴えかけてくるんだが、言葉がわからない。


 ってことで。先頭の女子っぽいノームに、


「《キャラクターメイク》」


 しかし俺が作業を始めると、


「あ。やっちゃう感じ? 私はちょっと帰ってくるね。メディちゃん、またね~」


 ローパーのニューは笑顔で去っていった。

 まあいいや。



 ちょちょいっと、数時間ほどで完成。

 今度の美少女は……クラスのちっこい委員長って感じだ。お団子ツインの髪型。垂れ目だが、意志の強そうにキリリと上がった眉。緑色のジャージ姿で、腕まくり。胸は控えめで、首からホイッスルをさげている。


 身長は140cmくらいに設定した。

 人間でいえば中学生くらいか? 低身長だが、もとのノームはそこからさらに30cmくらい低い。


 最後に『装備』ってほど大したものじゃないんだが、オリハルコン製のスコップを持たせてみた。なんか、妙に似合う。


「おおっこれは? とてもいいお仕事です、ダンジョンマスター!」


 本人も喜んでいるようで良かった。


「名前はそうだな……」


 ノームは確か、大地を司る精霊でもあるんだっけか? 鉱山に住み着くこともあるとか――


「そんじゃ、マインで」

「マイン……いい名前ですね!」

「それで、何しに来たんだ?」

「そうでした! 私たちは抗議にきたんです!」


 まさしくクラスメイトをまとめる委員長といった風情で言い放つと、背後のノームたち(心なしか待ちくたびれて疲れている)が、「ムー!」と呼応した。


「俺のダンジョン運営に抗議ってことか?」

「はい、私たちの仕事についてです!」

「仕事って……」


 原作ゲームでモンスターたちには、おおまかに属性がある。


 例えばメディはガッツリと戦闘タイプ。侵入してきた女冒険者たちを実力で排除し、または石化して戦闘不能にする。戦闘手法こそ異なるものの、朧やローパーもこのタイプだ。

 そんで、原作では散々えっちな目に遭わせるわけだが――


 一方でノームは、ダンジョンの建設やトラップの設置を手伝ってくれる支援タイプ。ダンジョンマスターが指示を出せば、その通りに作り込んでくれる。


 モンスターにも体力があって、戦闘では体力を削られると、作業では負荷が限度を超すと、そのモンスターは倒れてしまう。戦闘の場合はトドメを刺されれば死んでしまうし、作業でぶっ倒れると回復まで時間がかかる。


 だから、酷使しないよう注意が必要なわけだ。


「そんなに無理させてないだろ」


 というか、ダンジョン建設は今のところ、すべて俺が《クリエイト》で済ませている。村娘ちゃん用のトラップも、キアとイメルダを迎撃したときも。


「それです!!」

「それ?」

「私たちは……仕事がしたいんです!!」

「っっ!? 仕事がしたい……だと……!?」


 耳を疑った。

 だがマインたちは本気のようだ。


「はい。お仕事がないと死んでしまいます! 一生懸命に汗をかいて働きたいんです!!」


 絶句。マジか。

 人間ってなるべく働きたくない生き物じゃない? あ、モンスターだった。


「ダンジョンマスターはご自分ですべてやってしまいますが、私たちに命令してもらえれば何でもやります!」

「何でも?」

「はい何でも!!」

「…………あんなことやこんなことも?」

「? はいっ!」


 曇りのないまなこで見つめ返して来ないでくれ、心が痛む。


「休め、じゃダメか?」

「それは聞けません!」

「何でもじゃないじゃん」


 俺のほうが子供じみてしまっているのは気のせいかな?


 しかし、そうかぁ。

 そんな抗議が来るとは思ってなかったな。


 ゲームでは《クリエイト》を使っても一遍に複数箇所は作業できないので、自分が取りかかっている以外の場所はノームたち支援モンスターに任せることになる。


 だがこっちに来てからの、俺の《クリエイト》は絶好調だ。ダンジョンを作り替えるのもトラップを設置するのも一瞬で出来てしまう。


「いくらダンジョンマスターでも、あちこちすべてに手が回らないのではないですか?」

「いや~、それがな。見ててくれ」


 《クリエイト》を発動させる。

 まずは振り返って、家の外装をチェンジしながら、


「実はさ、こんなことも出来るようになったんだ」


 スッと指を振って、ノーム集団の背後の壁に、新たな通路を作ってみせる。


「ええっ!?」

「同時に作業可能なんだ。ゲームじゃ出来なかったんだけどなぁ」

「うぅう……、そんな、お仕事……労働……」


 だから正直、ノームたちはゆっくりしてくれていいんだが。

 どうにもそれじゃあ逆にストレスが溜まるらしい。

 

 しょぼくれるマインと、同じようにうなだれるノームたち。ううん、ダンジョンマスターとしてはこの子らの満足度も上げておきたいところだ。

 別に好感度システムなんてないんだが(たぶん)――


 王子時代、国民の幸せをないがしろにする王族や貴族ばかり見てきたからな。アイツらと同じにはなりたくない。


「わかったよ。じゃあ提案だ」

「――――?」


 マインたちが顔を上げる。

 俺は彼女たちに向かって宣言した。


「ここに、街を作ろう」

 

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